『トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン~セレクト・ライヴ・アンダー・ザ・スカイ'87“10thスペシャル”』
『トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン~セレクト・ライヴ・アンダー・ザ・スカイ'87“10thスペシャル”』

 朗報である。夏の野外フェスを代表した「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」で録られた諸作中で一、二を争う傑作と伝えられながらも長らく廃盤となっていた『トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン』が実に23年ぶりに再発されるのだ。もっとも、映像版が先行したせいか、その再発が長く絶えることはなかった。DVDは容易に入手できるのにCDは超入手難、逆転現象が起きて中古のCDには目が点になる高値も見られることに。後藤雅洋氏、村井康司氏と選盤解説にあたった『ジャズ批評』177号の特集「ジャズ・ライヴ名盤100選」の選考過程でも話題にのぼったが、CDが入手難とあって見送った。同フェスが始まったのは1977年だが82年は中止、87年が10回目でコルトレーン没後20年と重なる。記念の年の大トリを、コルトレーンの流れをくむ両雄、ウェイン・ショーターとデイヴ・リーブマンがメーンのコルトレーン・トリビュートとしたわけだ。

 通称ライヴ・アンダーは野外フェスの老舗として人気を呼び、その模様もFM東京系で全国に流されたがライヴ盤は意外に少ない。10回目までの録音を【録音リスト】として欄外にあげた。ラインアップはそちらに譲るが、当初はV.S.O.P.のブレイクをうけ、またマイルストーンの全面協力を得てまずまずの録音を残したものの以降は沙汰やみに。東芝の主催だったとはいえ「オーレックス・ジャズ・フェスティヴァル」が全ステージを録音したことを思えば残念な気がする。臨時編成も少なからずアーティストの専属契約がレコード各社にまたがるとあっては、おいそれと取り組めるものではなかったのだろう。絶対数が少ないこともあり、連載で取り上げたのはV.S.O.P.の『熱狂のコロシアム』(第35回)と、『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ』(第40回)にとどまる。8年ぶり、7回ぶりの録音となる推薦盤はV.S.O.P.盤に勝るとも劣らない傑作ライヴとなった。

 幕開けは《ミスターP.C.》、ショーターとリーブマンがテーマを合奏しだすやいなや場内が沸きかえる。ソロはリーブマンが先発、コルトレーンを究めた者らしく師の流儀を敷衍したフレーズを矢継ぎ早にたたみかけ激情を迸らせる。続くショーターは、対照的に端から想像の翼を思い切り広げて独自の世界を築き上げていく。これ、勝負ありですね。バイラークは抒情派のイメージを覆す剛腕で驚かす。9分あまり、息もつかせぬ熱演だ。

 リーブマンの実直なMCをはさんで彼とバイラークのデュオによるバラード・メドレイ《アフター・ザ・レイン~ナイーマ》が続く。雨模様を模したシュールなイントロのあとフリーテンポで伸びやかに綴る前者、リーブマンが意表を突くエイトビートで自由奔放に歌い上げ、バイラークがリリカルな世界に引き戻すが再びリーブマンが躍動する後者と、豊かな構成力で飽かせない。コルトレーンを代表する佳曲の佳演で終わらせない傑演だ。

 ラストはコルトレーンの「ヴィレッジ・ヴァンガード」ライヴで知られる《インディア~インプレッションズ》だ。前者は時にジミー・ギャリソンを思わせるエディ・ゴメスのパーカッシヴなソロでスタート、ショーターとリーブマンのテーマ替わりの絡みのあと、ショーター、バイラーク、リーブマンがソロ、ショーターとリーブマンの絡みで終えて、ディジョネットのソロで後者につなげる。後者はショーターとリーブマンのテーマ合奏、ショーター、バイラーク、リーブマン、ディジョネットがソロ、テーマと絡みで終える。ともに先発するショーターはグチョングチョン、ブチ切れてます。バイラークはピアノを痛めつけ、リーブマンはショーター以上にブチ切れている。鳥肌ものの熱血奮闘巨編だ。

 よくある大物を集めたトリビュートとは一線を画する。ここで繰り広げられているのは単なるトリビュートではない。コルトレーンを旗印に全員一丸となり、さらにそれぞれが音楽性を発揮した、いまを生きるジャズなのだ。これに勝るトリビュートはないだろう。

 この12月9日に発売予定でリマスターかつ廉価盤とある。この機会を逃すと20年間探し続けることになるかもしれない。リンク先にジャケ写はなく上掲の画像は手元にある旧版のものだが、ゲイジツ的にも奇妙にも映る印象的なジャケットは変わらないだろう。[次回11/30(月)更新予定]

【録音リスト】
1977 V.S.O.P./Tempest in the Colosseum (Jp-CBS Sony/7.23)
   Jazz of Japan-Live Under the Sky '77/VA (Jp-Flying Disc/7.24) *1
1978 Tony Williams/The Joy of Flying (US-Columbia/7.27) *2
   McCoy Tyner/Passion Dance (US-Milestone/7.28)
   McCoy Tyner/Counterpoints (US-Milestone/7.28)
   Ron Carter/1+3 (Jp-JVC/7.29)
   Galaxy All-Stars in Tokyo/VA (Jp-Galaxy/7.30)
   Ron Carter/Carnaval (US-Galaxy/7.30) *3
1979 V.S.O.P./Live Under the Sky (Jp-CBS Sony/7.26, US-Columbia/7.27)
1987 Tribute to John Coltrane (Jp-Paddle Wheel/7.26) 推薦盤

*1: ジョン・スコフィールド(el-g)とクリント・ヒューストン(el-b)が参加した日野皓正クインテットの《フリー・ランド》を収録。
*2: 同フェスでの《オープン・ファイアー》を収録。
*3: 実質「グレイト・ジャズ・トリオ」と渡辺貞夫(as)が組んだ5曲を収録。ひとつ前のオールスターズ盤と3曲重複。

【収録曲】
Tribute to John Coltrane - Select Live Under the Sky '87 10th Special

1. Mr. P.C. 2. After the Rain - Naima 3. India - Impressions

Recorded at open theater EAST, Yomiuri Land, Tokyo, on July 26, 1987.

Wayne Shorter, Dave Liebman (ss), Richie Beirach (p), Eddie Gomez (b), Jack DeJohnette (ds).

【リリース情報】
Title A: Tribute to John Coltrane - Select Live Under the Sky '87 10th Special
Title B: Tribute to John Coltrane - Live Under the Sky
Title C: Select Live Under the Sky '87 - 10th Special

1987 LD/VC Title A (Jp-Videoarts)
1987 LP/CD Title A (Jp-Paddle Wheel)
1987 LP  Title B (US-Columbia)
1987 CD  Title C (UK-Epic)
1987 LP  Title C (Br-Epic)
1989 CD/CT Title B (US-Columbia)
1992 CD  Title A (Jp-Paddle Wheel)
1999 DVD  Title A (Jp-Columbia)
2005 DVD  Title A (Jp-Columbia)
2008 DVD  Title A (Jp-Columbia)
2010 DVD  Title A (Jp-Yamaha)
2015 CD  Title A (Jp-Paddle Wheel) 推薦盤

LD: Laser Disc, VC: Video Cassette (Video Tape), CT: Cassette Tape

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。