――デ・キリコの人生を知って展覧会に行ったとき、岡田さんは、どんな対話ができそうでしょうか。
ここまで本気で悩めるだろうかということ。そこがすごいと思うんですよね。ものづくりの人として共感もできる。自分とは比べられないけど、辛さと向き合い続けて、ずっと頑固でいられるのはすごい。ニーチェが好きで、彼の言葉である「謎以外の何を愛せよう」を実践して問い続けて、生きることの答えを欲しているんですよね。10代20代のときは僕も答えを欲していた。でもどこかで折り合いをつけて大人になっていく。デ・キリコは問いかけをやめずに創作に向き合い続けている。そんな人が表現したのはどんなものか、色々と考えてみたいです。
――気になる来日作品はありますか?
《瞑想する人》は好きな作品です。構図がアンバランスで足が石から生えているように見えますよね。その一方で窓から見えるのは平和な空。影の出方も色々で光源がよくわからない。人間の幸せな部分や嫌な部分を表現しているのかもしれない。謎があって、「2時間ぐらい考えさせてください」という絵です。
――不思議な絵ですね。他にはどうでしょう。
《予言者》です。マネキンなのは、ピエロのように人間の役割を演じさせているということなのかな。いい色味ですよね。もう一つ《バラ色の塔のあるイタリア広場》は、「イタリア広場」のシリーズ。北イタリアっぽい感じですし、旗があるから戦時中なのかなとか想像させます。
――まさに「謎」が多い絵です。
デ・キリコは不安、憂鬱、謎などの表現をされますけど、ぽっかり「穴」が空いていることを感じる画家。欠けてしまったものを埋める何かを探していたのかもしれないです。作品で人を不安にさせたかったわけではなく、自分の不安、戦争、時代、人間関係、生きている謎、そういうものを作品として描いた人だと思う。
――今までに印象的な美術体験はありますか。
僕が20代のとき9・11のテロのあとに、ニューヨークの世界貿易センターがあったグラウンド・ゼロに行ったんです。そのあとハーレムの教会でゴスペルを聴いて、近くにあった美術館に偶然入りました。現地のアーティストの方々の日本をテーマにした展示を見たんです。いろんなエネルギー、感情や情熱も絡んでいて、アーティストが表現しているものの強さが伝わり、表現する意味を考えさせられたのをよく覚えています。