一生を棒に振ることも、大成功もある
「2億円の借金を抱えても、その後15億円当たるかもしれないと思えるのが『人生ゲーム』ですよね。実際、人生では一つの失敗で一生を棒に振ることもあるし、ちょっとしたきっかけで大成功することもある。だから、人生は『人生ゲーム』と大きく変わらないんだ、と思うようにしています」
そんな感覚が身についたのは、コロナ禍やその後の時期だという。
コロナ禍に起こった思いがけない出来事や精神的にこたえることが重なり、言葉を選ばずに言えば、「死んだほうがマシかもしれない」という状況にまで追い込まれた。
死なないためにはどうすればいいか、と考えた末、思いついたのが鳥のように「俯瞰する」ということだった。
「とは言え、同じ人間、同じ感覚、同じ頭脳なので、すべてが解決するわけではないですけれど。感情をバグらせているだけなので。本来なら、『悲しい』と思うことを悲しいと思わせないというのは異常だな、と思うこともあります」
「ついてきてください」
つくり手として作品に向き合うときも、主観的になりすぎないようにしているという。自分ではどうしようもないときもある。そんなときは、切り離して考える。
スタッフやキャストにこう声をかけることがある。
「全員に平等に、同じだけの時間接することはできないし、自分もアツくなりすぎることもあるかもしれない。けれど、必ずやって良かったと思う作品にするからついてきてください」
そう話す表情は清々しく、爽やかだ。
「仕事でも、学校生活でも、人生みないろいろあると思います。でも、何かをやり遂げたときにみなが『良かった』と思えたら、最終的にみな涙を流すじゃないですか。一つの作品をつくり上げる過程に、大変なことはいくらでもある。でも、『必ずやって良かったと思う作品にする』と言葉にすることで、自分の気持ちをそこまで持っていこうとしているのだと思います」
苦悩や葛藤を経て成熟した人ならではの、強さと柔らかさがあった。
(ライター・古谷ゆう子/文中敬称略)