ただ、低金利の時代においては、潤沢な営業キャッシュフローがあるにも拘わらず、借金を返済するどころかさらに借金を増やし、それら営業活動によるキャッシュと財務活動によるキャッシュを、有価証券の取得に充てている会社があったりします。借金を減らすより、その企業のファイナンス力を活かして低金利でお金を借りてきて、それを有価証券に投資した方が、会社全体として利回りが高いということなのでしょう。
はたまた、潤沢な営業キャッシュフローのある会社は、莫大な額の自己株式を取得している場合も少なくありません。前述のIBMの過去のキャッシュフローを見てみると、クラウド関連の会社に莫大な投資をした年以外は、平均的に営業キャッシュフローの約6割を財務キャッシュフローにつぎ込んでいます。この財務キャッシュフローのほとんどが配当金の支払いと自己株式の取得です。どちらも株主のためのキャッシュフローです。
『新版 財務3表図解分析法』で説明したとおり、自己株式を取得すれば基本的にROE(Return On Equity)は上がり株価も上がります。それはすなわち企業価値を高めることにつながるのです。IBMは欧米の企業です。欧米の企業は基本的に株主資本主義ですから、株主のために多くのキャッシュを使うのは当たり前なのです。
このようにキャッシュフロー・マネジメントは経営方針に大きく関わってきます。キャッシュをうまく活かして企業を存続させるだけでなく、企業価値を高めていくことがキャッシュフロー・マネジメントなのです。