ただ、低金利の時代においては、潤沢な営業キャッシュフローがあるにも拘わらず、借金を返済するどころかさらに借金を増やし、それら営業活動によるキャッシュと財務活動によるキャッシュを、有価証券の取得に充てている会社があったりします。借金を減らすより、その企業のファイナンス力を活かして低金利でお金を借りてきて、それを有価証券に投資した方が、会社全体として利回りが高いということなのでしょう。

 はたまた、潤沢な営業キャッシュフローのある会社は、莫大な額の自己株式を取得している場合も少なくありません。前述のIBMの過去のキャッシュフローを見てみると、クラウド関連の会社に莫大な投資をした年以外は、平均的に営業キャッシュフローの約6割を財務キャッシュフローにつぎ込んでいます。この財務キャッシュフローのほとんどが配当金の支払いと自己株式の取得です。どちらも株主のためのキャッシュフローです。

『新版 財務3表図解分析法』で説明したとおり、自己株式を取得すれば基本的にROE(Return On Equity)は上がり株価も上がります。それはすなわち企業価値を高めることにつながるのです。IBMは欧米の企業です。欧米の企業は基本的に株主資本主義ですから、株主のために多くのキャッシュを使うのは当たり前なのです。

 このようにキャッシュフロー・マネジメントは経営方針に大きく関わってきます。キャッシュをうまく活かして企業を存続させるだけでなく、企業価値を高めていくことがキャッシュフロー・マネジメントなのです。

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國貞克則

國貞克則

1961年岡山県生まれ。東北大学機械工学科卒業後、神戸製鋼所入社。海外プラント建設事業部、人事部、鉄鋼海外事業企画部、建設機械事業部などで業務に従事。1996年米国クレアモント大学ピーター・ドラッカー経営大学院でMBA取得。2001年ボナ・ヴィータ コーポレーションを設立。日経ビジネススクールなどで公開セミナーやeラーニングの講座を担当している。著書に『新版 財務3表一体理解法』『新版 財務3表図解分析法』(ともに朝日新書)、『渋沢栄一とドラッカー 未来創造の方法論』(KADOKAWA)、訳書に『財務マネジメントの基本と原則』(東洋経済新報社)などがある。

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