しかし、常に投資キャッシュフローを営業キャッシュフローの範囲内でまかなえばいいかというとそうではありません。企業はここぞというときに大胆な投資をしなければならないことがあります。

 例えば、『新版 財務3表図解分析法』で説明したように、IBMはある年に3兆円を超えるお金を投資して、クラウド関連の会社を買収しました。IBMの通常の年間営業キャッシュフローの約2倍にあたる額です。このような場合には財務的な資金調達が不可欠になってきます。

 将来の営業キャッシュフローに不安がある場合も財務的な資金調達が必要になります。例えば、航空会社のANA(全日空)はコロナ感染症の蔓延が始まった翌年に、4000億円を超える赤字に陥りました。営業キャッシュフローも前年のプラス約1300億円からマイナス約2700億円にまで落ち込みました。営業活動によってキャッシュを稼ぎ出すどころか、営業活動を行うことによって莫大な額のキャッシュが外に出ていったことを意味します。

 その当時はコロナの収束がいつになるのか見通せない時代でした。このような状況で経営不振が続いても従業員を解雇することはできません。つまり、従業員への給料の支払いは続きます。ANAはこの大赤字になった年に、約8300億円の借金をし、増資で約3000億円を調達することにより、この年だけで1兆円を超える現金を準備して将来に備えたのです。

 もう少し例を挙げておきましょう。例えば、必要な投資キャッシュフロー以上の潤沢な営業キャッシュフローを稼ぎ出している会社は、どのようにキャッシュをマネジメントすればよいのでしょうか。まずは借金返済や株主への配当にお金を使うというのが一般的でしょう。

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