荒木伸二(あらき・しんじ・左):1970年、東京都出身。CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターとして数々のCM、MVを手掛ける。「人数の町」(2020年)で長編映画デビュー/若葉竜也(わかば・りゅうや)/1989年、東京都出身。近年の出演作に「愛がなんだ」(2019年)、「生きちゃった」(20年)、「市子」(23年)など。本作は「街の上で」(21年)に次ぐ主演2作目(撮影/伊ケ崎忍)
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 最愛の恋人を殺めた男を殺すも、また同じ日を繰り返してしまう。悪夢のようなループに挑んだ“日本映画界の異端児”たちが問いかけるものとは。AERA 2024年3月25日号より。

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 6月6日、朝6時。岩森(若葉竜也)は身支度をして仕事場に向かい、溝口(伊勢谷友介)を刺し殺す。彼は岩森の恋人を殺した男なのだ。だが翌朝、目覚めるとまた6月6日。溝口もなぜか生きている……。映画「ペナルティループ」では悪夢のような日々が繰り返される。

荒木伸二:映画は時間をいじることができる芸術なので、これまでも「ループもの」は多く作られてきた。その究極を作ってみたかったんです。加えて「大切な人を殺されたとき、敵のことを殺したら許せるだろうか? 1回じゃまず許せないかも、じゃあ何回殺したら?」と脳内で妄想したりして。

若葉竜也:わかる気がします(笑)。

荒木:でも復讐したら、それで救われるのか?とかね。日常のなかにある「考えるとハマってしまう深淵」をのぞくような作品にできればと思いました。

ほかの人と違う生き方

 殺害シーンが何度も何度も繰り返されるなど、現代に敬遠されがちな描写にあえて挑んだ。

若葉:企画をいただいたのはコロナもあって嫌なニュースがたくさん飛び込んできていた時期でした。そのなかで役者や監督など娯楽を作る人たちがどんどん保守的になっていくのを感じていた。作るものも発言も気をつけないと叩かれるぞ、という空気に怒りみたいなものが蓄積している感覚があったんです。そんなときにこの脚本に出合って、救われた気がした。既存のものをぶっこわしたい、なにか触ったこともないものを作ろうとしている同志がいるんだ、と。

荒木:いまは誰でもSNSでそうした怒りを発信できますよね。でも真の怒りはそこにぶつけている場合じゃない。特に表現者である自分は映画でそれをするしかないと。若葉さんにお会いしてすぐに「あ、ほかの人と全く違う生き方をしようとしているんだな」と感じました。型にはまろうとする気はない方だなと。この世界で生きていくのは大変だろうなとも思ったけど、すごくおもしろいと感じた。

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