この映像を見ているだけで泣けてくるけど、歌っていうのは、弱い者が弱い者を励ますためのツールなんだということが分かりますね。今歌っている人たちは、もっと弱い仲間に対して、大丈夫だよ、どうにかなるよって歌ってあげているわけでしょ。歌っている彼ら自身も弱い者じゃないですか。弱いものが弱いものをやっつけるのが「いじめ」で、弱いものを励ますのが「歌」。そう確信できました。
――この動画はロシアの侵攻開始日(22年2月24日)の撮影。今、この大学のホームページには、2年間の戦争でロシアの攻撃により死んだ学生ら24人の遺影がアップされています。
戦争って、非戦闘員がどんどん殺されていくわけですね。それは、近代兵器ができてからですね。大量殺戮の兵器を持っている国が、大量に人を殺していくという近代戦の恐ろしさが全部ここに出ていますね。
――それでもウクライナでも日本でも人々は歌い続ける。歌の力とは。
「さださんのこの歌を聴いて、私は苦しみを乗り越えてきたんです」という手紙は、かなりたくさん頂戴します。僕らは平和な国の平和なコンサートホールで歌を歌っているけど、人生という大きな「戦場」で、一人ひとりが生きているということですよね。その戦場の中で苦しんでいる人にエールを送るのが歌だなと思っているし、「これは私のために書いてくれた歌だ」と思ってくれる人のためにもヒット曲というのがあると思います。ヒット曲は日本のどこにいても聞けますからね。(ヒット曲でない曲は)僕のコンサートに来てくれる人にしか聞いてもらえないですから。
――「キーウから遠く離れて」の歌詞は、一部のウクライナの人も読んでいます。この曲も含め、「いのち」という言葉が、曲によく出てきますね。
もう僕のテーゼ、テーマの一つです。手を変え品を変え、メロディーを変え、言葉を変えているだけで、テーマは全く動かない。あなたは自分の命を大事にしてください、ということ。自分の命が大切なように、敵の命も大切にしてくださいよっていうのが大きなテーマです。愛の歌は全部、反戦歌だ。僕はそう信じています。だって愛を歌うんだったら、敵の命を奪って良いという論理はありえないですよね。僕に戦争賛美の曲は1曲もありません。戦争が起きるたび、僕はショックを受けるもんですから、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争。これらについて、馬鹿なことを人間は繰り返すんだな、という思いも持ちながら、曲を書いてきました。
――ウクライナ戦争についてはいかがですか。
僕は音楽家なので、銃を人に向けて撃つことはできない。撃った瞬間、自分の歌が嘘になってしまうから。でも、「銃を撃たないで大事な人を守る方法はないのか」というのが強烈なテーマとして、22年2月のロシア侵攻以降、自分の中に生まれました。それについて、今も考え続けています。
(岡野直)