音楽は無力――。歌手で作家のさだまさしさんは、そんな言葉を著書に記したこともあった。しかし、ロシアの大統領選を前に、ウクライナ人の抵抗を歌ったさだまさしさんの曲、「キーウから遠く離れて」(作詞・作曲 さだまさし)が多くの人の心を動かしている。日本語からウクライナ語へ訳され、その歌詞を読んだ戦時下の人から「胸を打つ」との声もあがる。歌とはいったいどんな働きをするのだろうか。さださんに、歌に込めた思いを尋ねた。
〉〉【前編】「さだまさし」が語るウクライナ侵攻「何もできないから僕は歌う」 曲が翻訳され静かな反響 から続く
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――ジョージア大使館の駐日大使が、さださんのウクライナ戦争をテーマにした曲「キーウから遠く離れて」を聞いて、涙を流したそうですね。歌詞は「君は誰に向かって その銃を構えているの」から始まり、「気づきなさい君が撃つのは君の自由と未来」「わたしが撃たれてもその後にわたしが続くでしょう」といったフレーズが印象的です。
東日本大震災(2011年)のチャリティーコンサートをきっかけに、その時お世話になった方のところで毎年小さなライブをしているのですが、昨年、最前列にジョージアの大使の方が座っておられたんです。それでふと、ウクライナのことを思っている日本人もいると伝えておこうと思い、歌いました。それまで僕のトークに笑ってらしたんですが、曲の途中から目頭を押さえていらっしゃいました。ジョージアもウクライナのように、かつてロシアから侵攻されたことがある国です。僕も胸が詰まって少し音程を外しながら歌い続け、「(ウクライナの)痛みを感じていらっしゃるのだろう。また、それを歌う歌手がいる、ということはちょっと理解してくれたのだろう」と思いました。
――東日本大震災の直後、「音楽は無力」という言葉を、自著にお書きになりました。
指揮者の佐渡裕さんの言葉の引用です。彼は震災の時、僕に電話をくれて、電話口で号泣しながら、そうおっしゃっていました。当時、震災で亡くなった方のご遺体が浜辺に打ち上げられていたりする映像を日本のメディアは報道しませんでした。視聴者のトラウマになるという理由だったのでしょう。でも、海外メディアは伝えていた。海外で活動される佐渡さんは、その大変さを知ったうえでの言葉だと思います。
――SNSが普及し、ウクライナ戦争ではそうした映像を国内外の人々が見ています。
やはりえん戦気分も出てきますよね。死にたくないって思い始めますよね。
――一方で、「どうにかなる」「すべて良くなるさ」という歌詞の歌もよく歌われていて、ウクライナ人には、ある種、強い気質もあります。
それを歌わないとやりきれないから歌うんですよ。それを信じているわけじゃないのだと思いますよ。そう言わないと、自分の心が、死んじゃうんですよ。「核兵器を撃ち込まれたら、どうするんだ」とか、マイナスのイメージばかりが心を占めると、何もできなくなる。だから、嘘でも良いから、どうにかなるって言いたいのでしょう。
――「キーウから遠く離れて」を訳してくれたウクライナ人の大学教員が、学生らが避難豪でこの歌を歌う動画をアップしています。
佐渡さんがおっしゃるように音楽は無力かもしれませんが、でも一方で音楽は人を励ます。音楽ってすごく個人的なもので、1人が歌い、1人が受け取るというもの。それが励ましになる場合もある。
(その後、さださんは、ウクライナの学生らが歌う動画をパソコンで見ながら、うっすらと涙を浮かべた。ウクライナ人学生は「すべてはよくなるさ」とリフレインしている)