末益貴仁さん(写真:本人提供)

意欲や能力がないと脱落する

 ハンガリー医科大学事務局によると、06年に日本人学生の募集を始めた当初、留学者は年間数十人だったが、今は80人前後まで増えたという。医師を目指す志はあるものの、日本では“壁”にはばまれて海外に活路を見いだす学生がいる背景について、事務局担当者はこう語る。

「医師免許は社会的にステータスが高く、進学校では、成績の良い生徒には積極的に医学部進学を勧める風潮があります。結果、日本の医学部入試の難易度と倍率は世界トップレベルです。日本では入試の一発勝負でふるいにかけられますが、ハンガリーでは、門戸は広く開かれている。その代わり、入学後は勉強漬けの厳しい生活が待っていて、意欲や能力が足りない人は脱落していきます」

 医学を学ぶ中で素養を判断されるハンガリー式は、10万人の医学部受験者のうち9割が門前払いを食らう日本式に比べて多少救いがあるようにも思えるが、前出の貴仁さんは、こうくぎをさす。

「『日本の医学部は落ちたけどハンガリーなら医師になれるだろう』と軽い気持ちで留学したものの、なかなか試験をパスできず追い詰められ、挫折する人の姿を何人も見てきました。なぜハンガリーに来たのか、明確な理由やモチベーションがあるかどうかで、その後の結果は左右されると思います」

 人の命を預かる医師の道は簡単ではない。だが、日本での受験戦争にとらわれず、海の向こうに目を向ければ、自分だけの新天地が見つかるかもしれない。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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