先生たちは採点やクラブ活動など通常業務の合間を縫って文集作成にあたっている。写真はイメージ(GettyImages)

「デメリットはあまり感じない」

 坂田さんは、数十年前とは明らかに異なる教育現場の“逼迫(ひっぱく)”を感じるという。

「背景の一つには、保護者への説明責任が重くなったことがあると思います。子どもがケガやケンカをした場合、経緯や状況について親御さんから説明を求められる場面が増えました。トラブルを把握していなかった場合は、把握していない理由も説明できないといけない。日頃からクラス内の様子に、目だけでなく心も配っていないと、対処できません」

 加えて、教員の人手不足も年々深刻化している。まさに働き方改革待ったなしの状況の中、多聞東小は今回、文集の廃止という大きな決断に踏み切った。

 だが坂田さんは意外にも、「文集がなくなるデメリットはあまり感じない」と話す。

「文科省は2020年から、小学校から高校までの活動を記録する『キャリア・パスポート』というツールを導入しています。これは子ども一人ひとりが自分の学びを振り返り、シートに記入するもので、“学校生活の記録”という卒業文集の役割を肩代わりできます。学校側も保護者にきちんと説明されているのか、クレームが入ったという話は聞きません」

 普段の授業をより充実させるためにも、時間を捻出しようとする工夫は、他校でも見られる。たとえば、「運動会を丸1日から半日に短縮して、全学年での練習が必要な競技は取りやめる」「音楽会は子どもたちの成長段階に合わせた難しすぎない曲を選ぶ」ことで、行事の準備時間を圧縮するといった事例があるという。

 課題山積みの教育現場で、今、本当になすべきことは何か。子どもたちの思い出作りやその記録の方法も、前例踏襲では立ち行かなくなっている。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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