卒業文集が完成するまでの業務は山ほどある。写真はイメージ(GettyImages)

文集制作にかかる膨大な業務

 まずは、作文のテーマ決め。6年間で印象に残った思い出を書くのか、はたまた将来の夢か、児童が書きたいものを一緒に掘り起こしていく。中には、アイデアを言葉にできなかったり、もはや何も思い浮かばなかったりする子もいるため、休み時間や放課後を使って個別に対応することもままある。

「テーマが決まったら、原稿の下書きを添削して、構成の不備や誤字脱字がないかを入念にチェックします。文集は卒業後何十年も残るものなので、子ども自身に悔いが残らないよう、必要に応じて何度も書き直しを指示します。一昔前であれば原稿を持ち帰って自宅で添削する教員もいましたが、今は紛失防止のため認められず、学校で作業するしかありません。また、プライバシー保護が叫ばれる時代なので、同級生の個人情報に触れる内容があると保護者からクレームが入ることもあり、基本的には自分のエピソードを中心に書くよう指導します 」(坂田さん)

 その後、下書き原稿が完成したら、次は清書に移る。いまだに昔ながらの“ペン書き”が主流だが、デジタルネーティブ世代がゆえに悪戦苦闘する子も少なくない。間違えた場合、修正ペンや修正テープを使うときれいに上書きできないことがあるので、原稿用紙のマスの形に切った白い紙を貼るという手の込んだ処置を施す教員もいる。

「最後は、ダブルチェック・トリプルチェックの観点から、先生同士で協力して、お互いが受け持っている児童の原稿を確認しあいます。それが終われば、完成した原稿を製本業者に渡すことができますが、ホッと一息つくのもつかの間、製本された文集に不備が見つかって刷り直しが発生するケースもあります」

 文集制作だけでもこれだけの業務が発生するわけだが、教員たちは日ごろから、テストの採点、ノートのチェック、児童間のもめ事の仲裁など、多岐にわたる仕事に追われている。

次のページ
文集の代わりに「キャリアパスポート」