タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復してきた小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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3月8日は国際女性デーでした。日本のジェンダー格差が世界の中でも最悪レベルだということは、毎年ニュースになっています。146カ国中125位という最新の順位もよく記事になりますよね。
ある同世代の女性はこう言っていました。「私は不平不満を言うより、女性らしさを生かす工夫をする方が聡明だと思う。女は出すぎず、男の人を立てる方が結局うまくいく」と。きっとそれは彼女が育ってきた環境での実感なのだと思います。でも、だからといって他の女性が格差に苦しんでいてもいいという理由にはならないでしょう。
実は就職するまで、私は女性差別なんてないと思っていました。家の中で「女のくせに」と言われたことはなかったし、女子校でのびのび過ごし、恵まれた環境で育ったことに感謝しています。ただ、中高の通学では、毎朝夕の満員電車で痴漢に遭っていました。苦痛だったけど「仕方がない、電車とはそういう場所だ」と思っていました。自分が長年にわたって痴漢という性加害を受けていたと知ったのは、40代になってからです。入社した時に同期40人のうち女性は4分の1ほどでしたが、そういうものだと思っていました。長のつく役職はほとんど男性でしたが、そういうものだと思っていました。それが構造的なジェンダー格差だと知ったのはやはり40代になってからです。30代で番組制作者に「もっと男性を立てる喋りを」と言われて決別した時も、性差別だとすぐには認識することができませんでした。あれはそうだったのだと気づいたのは数年後です。
考えてみてほしい。自分がジェンダー格差や偏見を実感していないのはなぜだろう。今「仕方ない、そういうものだ」と思っていることは、本当に仕方ないのだろうか。知らないことがあるかもしれない。きっと、そこから新たな視界が開けるでしょう。
※AERA 2024年3月18日号