「政治に興味を抱き続けるためにも、自分の生理的な感覚を磨いていかなくてはならないと思います。たとえば虫に刺されて赤く腫れているのに『大丈夫』と、自分の生理を蔑ろにしているのは、変な暗示をかけているだけでしょう。『耐えるのが大人』と、社会からの圧力を受け入れていると、あとでツケが回ってくる。この本が感覚を磨くレッスンの役に立ってくれたら、と思います」

 松尾さんの文体は派手な言い回しを使わない、抑制されたものだが、リズムがあり心地よい。

「もっと『エモい』、煽りまくるような文章も書けたけれど、皆さんの生理に訴えたいからこそ、普段の会話の声量で伝えようと思いました。歌詞もたくさん書いていますから、エモい文章は苦手じゃないんですけどね(笑)」

 そうだ。松尾さんは作詞家でもあり、CHEMISTRYやEXILE、JUJUなど錚々たるアーティストをプロデュースしてきた。エンターテインメント業界のど真ん中にいる人が書いたのが、本書なのだ。

「この本をきっかけに、誰かと語りあってもらえたら、と思っています」

 誰の胸にも、その人だけの歌があるはずだ。その歌のうたいかたを本書は教えてくれる。

(ライター・矢内裕子)

AERA 2024年3月18日号

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