AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来』はジャニーズ問題の解決、新しいエンターテインメントの未来はどうあるべきか。現代屈指の音楽プロデューサーが山下達郎への異議申し立ての経緯、映画やアート、政治について歌うように書いた一冊。松尾潔さんに同書にかける思いを聞いた。
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「パレスチナが危機にある」
という一文から、本書は始まる。
「コロナ禍の初期に、エンターテインメントは時の権力者から『不要不急』と断じられました。僕自身、『世界情勢が緊迫しているのに、ジャニーズ問題ばかり取りあげるのはどうなのか』と、高名なジャーナリストから言われたこともあります。けれどジャニーズ問題でも自殺なさった人はいるし、生命の重さに差はないはずです。あるとしたら、遠近感が生み出す錯覚のせいではないでしょうか」
と、松尾潔さん(56)は言う。
情報の送り手であるメディアだけでなく、受け取る私たちも「遠近両用の感性を磨き続けなければならない」のだ。
書き下ろしとなる第1章「おれの歌を止めるな」から本書は始まる。第2章「時代の音が聴こえる」では、映画や演劇、展覧会、本をめぐる文章が集められ、さらにラジオでの発言録、時評的なコラムのあと、最後の第5章には近田春夫さん、田中康夫さんとの鼎談が収録されている。日本のエンターテインメント界が揺れた、2023年の記録としても貴重な内容だ。
「ジャニーズ問題の経緯とスマイルカンパニー契約解除について丁寧に、自分の言葉で説明すべきだと思い、最初の章を書き下ろしました」
山下達郎夫妻との思い出、音楽評に重ねた山下さんへのメッセージが胸を打つ。思えばかつての雑誌には大人の見識を教えてくれる洒落たコラムが載っていた。自分の美意識と政治や社会とのつながりを刺激してくれる、松尾さんもそうした書き手の一人だ。