承認から早10年、「免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法薬)」は、がん治療に欠かせない薬となった。2014年に悪性黒色腫に対して承認されたニボルマブを筆頭に、現在、ペムブロリズマブやアベルマブ、アテゾリズマブなど、8種類が日本で承認され、使えるがん種も広がっている。本記事は週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2024』に掲載した「がん薬物療法」の解説記事より、免疫チェックポイント阻害薬の基礎知識と注目のゲノム医療のコラムを、抜粋してお届けする。
【図表】免疫チェックポイント阻害薬の種類と適応となる主ながんはこちら
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国立がん研究センター中央病院の後藤悌(やすし)医師は、「一部の人は本当に治ったというぐらい効く。薬でがんを治せるなんてあり得ないと思っていたけれど、本当にそういうことがあり得る」と話す。
慶応義塾大学病院の浜本康夫医師も、「これまでいろいろな新薬が出てきたが、数年経つとだいたい限界が見えてきた。しかし、不思議なことに免疫チェックポイント阻害薬はまだそこまでいっていない。効かないと思っていたがんに対しても、コンビネーションなどで治療効果が期待される」と注目する。
私たちのからだの免疫のシステムを応用してがんをたたく、免疫チェックポイント阻害薬。具体的な作用機序は次の通りだ。
リンパ球などからなる免疫は、からだに存在するさまざまな異物に対して反応し、排除する働きを持つ。そういう意味では、がん細胞も異物の一つなので免疫に排除されるはずなのだが、がん細胞の場合、免疫をくぐり抜ける仕組みがあるため、排除されずに増殖できてしまう。
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が提示する免疫をくぐり抜ける仕組み(免疫チェックポイント分子など)に作用することで、がん細胞が免疫から逃れる仕組みを解除する。その結果、リンパ球の一つであるT細胞が活性化され、がん細胞を異物と見なして攻撃を仕掛けることが可能になる。
現在わかっている免疫チェックポイント分子には、CTLA-4とPD-1、PD-L1があり、それぞれが免疫チェックポイント阻害薬のターゲットとなっている(例:ニボルマブはPD-1に対する抗PD-1抗体、アベルマブはPD-L1に対する抗PD-L1抗体)。薬が使えるがん種は肺がんや乳がん、胃がん、大腸がんなどさまざま。多くのがんは使うタイミングや併用できる治療などは規定されているものの、遺伝子検査をせずに使うこともできる。一方、そうした枠にとらわれず薬を使うには、がん組織のMSI(マイクロサテライト不安定性)を調べる必要がある。詳しいことは主治医などに聞いてみるといいだろう。