岡山芸人である千鳥
岡山芸人である千鳥

 方言を使わないことが何となく不自然な気がする理由は、関西芸人の多くがテレビに出るときにも関西弁を使い続けているからだ。ただ、これは、古くからお笑いの文化のある関西という地域だけに例外的に認められた特権のようなものであり、関西弁以外の方言が積極的に使われることはほとんどない。

 また、厳密に言えば、関西芸人が全国ネットのテレビで使っている関西弁も、元の方言に比べると標準語寄りにマイルドになったものであり、本来の地元言葉がそのまま用いられているわけではない。

 井口があえて標準語にこだわるのには、別の理由もあると考えられる。彼は何にでも噛みつく毒舌芸を売りにしている。その発言内容の毒々しい印象を和らげるために標準語が使われているのではないだろうか。

 仮に、井口が強めの岡山弁で漫才をやっていたら、もっときつい感じに聞こえて笑いの量も減ってしまうはずだ。井口はあえて標準語を使っているし、一人称も「僕」にしている。見た目の印象も相まって、毒舌ではあるが「負け犬の遠吠え」のように見えるので、そこまで真に迫るような嫌な感じはしない。

 芸人の中には、方言を使う人もいれば、使わない人もいるし、使っているつもりはないが出てしまいやすい人もいる。それぞれの芸人が、人を笑わせるという目的のために最適な手段を選んでいるだけなのだ。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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