●多モデル化とモデル呼称の変更を一気に推し進めた事業戦略の凄さ

 メルセデスの最近のモデル呼称は、「GLC」「SLS」「CLS」等、3文字が増えた。

 往年のC、E、Sに慣れ親しんだ自動車評論家たちの多くが「小型車のA、Bセグメントへの参入に加えて、3文字化が進み、正直なところ頭が混乱してしまう」と漏らす。これはまさしく、製造販売者が消費者に対して商品性を強く打ち出すプロダクトアウトの発想だ。こうしたメルセデスの“身勝手”が市場で許されてしまうのは、「メルセデスはいつの時代でもベンチマーク」という消費者のメルセデスに対する思い込み(=ブランド力)があるからだ。

 今回フランクフルトショーでは、ジャガー「F-PACE」、インフィニティ「Q30」、マツダ「越(KOERU)」等、日欧各メーカーから数多くのクロスオーバーSUVの量産車やコンセプトモデルが登場した。クロスオーバーSUVとは、従来のSUVにクーペの雰囲気を加味したモデルで、インテリア造形もポストモダニズム調のお洒落な雰囲気がある。

 こうしたトレンドは、メルセデスの新「GL」系モデルが発信源である。メルセデスは、20代、30代の顧客層向けとしてA、Bセグメントを強化し、そのなかでクロスオーバー車の開発の進め、それを上級モデルへと展開しているのだ。

 このように世界の自動車の“車格”を変化させてしまうような事業戦略が、トヨタを含めた日系メーカーにはない。または、市場が求める“車格”が変化したと感じ、それに対して一気に事業戦略を変更するというフレキシビリティが日系メーカーにはない。

 結局、時代がドンドン変わっても「メルセデスがベンチマーク」になってしまうのだ。
●新車が売れなくなるのに本気でカーシェアリング

 もうひとつ、トヨタが敵わないメルセデスの強みがある。それが、カーシェアリング事業だ。

 スマートを使った「CAR2GO」は現在、8カ国の30都市で1万3500台を常備し、登録会員数は100万人を超えている。特徴は、どこでも借りられて、どこでも返却できること。つまり、路上駐車が法的に許可されている国や地域でサービスを行っている。先進国の多くで若者のクルマ離れが進む中、最近は「CAR2GOを利用したいから自動車の運転免許をとった」という若年層が出現しているほど、新しい交通システムとして街に根付いている。

 CAR2GOは、メルセデスが掲げる商品戦略「Mercedes me」に含まれる事業モデルだ。「Mercedes me」とは、消費者である「me」を基点としてメルセデスとの接点を構築するもの。つまり、メルセデスの真骨頂であるプロダクトアウトの対極にある、マーケットイン型の考え方だ。

 Mercedes meは、「connect me」「assist me」「finance me」「inspire me」そして「move me」という5つの領域で構成されており、CAR2GOはmove meに属する。

 このmove meには、CAR2GOやBクラスを使ったタクシーサービス「mytaxi」等、メルセデス(ダイムラー)の自社製品を利用するビジネスモデル以外に、メルセデスが投資した交通システムの乗り換えをスムーズに行うスマートフォンアプリサービスの「moovel」や「RIRECOUT」等が含まれている。つまりmove meとは、従来の自動車メーカーが行っている“新車売り切り型”ではないビジネスモデルの集合体である。

 他方、トヨタの場合、超小型モビリティの「i-ROAD」等を使った試みを行ってはいるが、どれも国や地方自治体からの補助事業としての実証試験に止まっており、事実上、補助金がなければ成り立たない。トヨタにはMercedes meのような新しい時代のクルマと消費者との関係を考えるための“現実的な新事業戦略”が存在しない。

 以上のように、自動車産業界における“大きな括り”を自力で構築する実行力こそが、メルセデスの強みなのである。