日が暮れた頃、子どもの手を引きながら帰宅する。仕事もプライベートも注ぐ熱量は同じだ(撮影/写真映像部・上田泰世)

 キャリア最優先でもなく、私生活重視でもない。仕事にもプライベートにも同じ熱量で向き合う新しい価値観がいま、働く女性たちに広がっている。そうした変化の背景には何があるのか。AERA 2024年3月11日号より。

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 東京都内の専門商社で総合職として働く女性(37)は、30歳の時、海外拠点との流通を担う部署に異動した。大学時代に留学経験があり、語学が堪能な女性にとって、入社以来の念願が叶っての辞令だったという。夢中で仕事をしながら、32歳で同い年の夫と結婚。ほどなくして長男(4)を出産し、約2年の育休を取って復職した。

「子どもがいるので常にバタバタしているし、寝不足です。でも、仕事は面白い。家族が寝静まった深夜にパソコンを叩きながら、大変だけどやっぱり働くことが好きだな、としみじみ思うことがあります」

 そう話す女性は、長男に1歳の頃から水泳と英語を習わせている。レッスンがある土曜日はプールと教室をはしごする生活を続けてきたが、昨秋からは小学校受験を見据えて毎週金曜日の夕方に絵画教室にも通い始めたという。保育園を早退する必要があるので、夫と千葉県に住む実母の3人で送迎を分担。女性も“当番”の日は仕事をリモートにするなど調整して、保育園まで自転車を飛ばす。女性は、

「子どものこともちゃんとやりたくて。仕事は忙しいけど、だから仕方ないとは全く思ってないです。ワーママのギリギリを攻めている感じかな」

 と話してから、こんなエピソードを教えてくれた。

いい意味で欲張り

 まだ20代だった頃、同じ職場の女性の先輩が、出産後3カ月で復職してきたことがあった。「おっぱいが張ってしまって、営業先のトイレで授乳ケープをかぶって搾乳した」「保育園のお迎えは毎日シッターさん。自分は、夕飯とお風呂が終わった頃に帰宅する」という話を武勇伝のように語る姿を見て、

「働くほうが精神面のバランスが保てるという人はいるので、その選択も理解はできます。でも、正直引きました。勤務先にはすでに育休の制度があったので、ちゃんと使えばいいのにな、と。私は仕事が大好きでキャリアも積みたいですが、そこまでしたいとは思っていないです」(女性)

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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