人間って意外と簡単に死んでしまうのだな......。ニュースを見ていてふとそう思ったことはありませんか。思いがけない事故や災害に見舞われたとき、人間の命は儚く脆いものです。羽根田治さんの著書『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』を読むと、「こんなことで!?」と思うような死の危険がたくさんあることに驚いてしまいます。
同書ではアウトドア中に起きた53の事例を紹介。「山で死ぬ」「動物にあって死ぬ」「毒で死ぬ」「川や海で死ぬ」の4章+コラムの構成です。それぞれに対策も書かれているので、読んでおけばいざというときの生存率を上げることができるでしょう。いくつかピックアップして紹介します。
まずはスノーボードやスキーをする人が「雪に埋まって窒息する」という事例です。よくウィンタースポーツをするという人より、たまにする人や初めて挑戦する人のほうが読んでおきたい内容です。
「頭から雪に埋まっている妻を夫が発見し、パトロール隊に救助を求めたとのことです。救助されたとき、女性はすでに意識不明の状態で、約3時間半後に、搬送先の病院で死亡が確認されました。死因は窒息死でした」(同書より)
「こんなことが起こり得るの?」と不思議に思うかもしれません。しかし現場はパウダースノーが楽しめる非圧雪コースで、転倒すると新雪などに埋もれて脱出できないことがあるそうです。特にスノーボードはスキーと違ってストック(両手に持つスティック)を持たないので「立ち上がることさえ難しく、なかなか思うように抜け出せない」(同書より)とのこと。同書では、こうした事態を避けるため「パウダーエリアには安易に入り込まないように」と助言します。スイスイ滑れるようになるまでは避けたほうが無難かもしれませんね。
続いては登山で「道に迷って死ぬ」という話。
「1月中旬、登山をしていた40代男性から『道がわからなくなった。足がつって動けない』と、消防に救助要請が入りました(中略)警察と消防は4日間にわたって捜索を行いましたが発見できず、捜索は打ち切られました。それからおよそ3ヶ月後の4月下旬、雪解けに伴い再捜索(中略)性別不明の遺体を発見しました。そばにはザックがあり、遺体の一部は白骨化していましたが、DNA型鑑定の結果、捜索していた男性と判明しました」(同書より)
今は地図アプリなど便利なものもあるけれど、「慣れているから」と油断して道に迷う人も少なくないようです。簡単そうに思える道でも、山では何が起こるか分からないので油断は禁物。同書では死なないためのアドバイスを以下のように記します。
「積雪で夏道が隠されているシーズンは、とくに慎重に現在地を確認する必要がある。また、スマートフォンで現在地の経度緯度を知る方法も覚えておき、救助要請時にはそれを伝えるようにする」(同書より)
スマートフォンの充電が切れる事態も想定してモバイルバッテリーを用意しておくことも忘れてはいけません。「日帰りだから」と思わず、もしものときを考慮して準備をすることで生存率はグッと上がります。
最後に紹介したいのは「クマに襲われて死ぬ」です。ただ、クマの怖さはすでに多くの人が理解しているかと思うので、事例は割愛して、コラムに書かれた、人間とクマの関係性が変わりつつある点を紹介します。
「山に棲むクマと、人間が生活する人里との緩衝地帯的な役割を果たしていた里山は、過疎化や高齢化などにより荒廃が進み、クマが頻繁に出没するようになっている。クマと人間の距離が縮まったことで、両者が遭遇する機会が多くなり、人間を恐れない"新世代のクマ"も現れはじめた」(同書より)
捕食目的で人間を襲ったとみられる事故も北海道や東北で起きているというから恐ろしいですね。そのため著者は以下のように助言します。
「クマが絶滅したとされる九州以外で野外活動をする際には(四国には剣山周辺に20頭前後のクマが生息しているといわれている)、そのことを頭のどこかに置いておいたほうがいいだろう」(同書より)
同書では万が一クマに遭遇したときどうするべきかも紹介しています。ほかにも「風に飛ばされて死ぬ」や「カタツムリやナメクジに触って死ぬ」など「まさかこんなことで......」と思わされる事例を多数掲載。自分や大切な人が危険な目にあわないための予防法や、危険な目にあったときどうすればいいかの対処法が学べます。普段あまり読書をしない人でもパッと読める手軽さもありがたい点です。心肺蘇生法や外傷の応急手当の方法も書かれているので、手元に置いておいてはいかがでしょうか。
[文・春夏冬つかさ]