1996年まで法律で強制隔離(施設収容)が定められていた「ハンセン病」。2015年も全国の療養所に1700人が暮らす。病の経験者たちを、新聞記者が追った。
施設内での生活は社会には見えず、メディアが取り上げるのは国賠訴訟など大きな出来事ばかり。著者はそれに対し、経験者たちの過去とともにその日常生活を描き出す。施設収容を機に親にもらった名を「封印」し別名を名乗る、身内であっても結婚式には出られない……病を取り巻く社会環境・偏見の過酷さが容赦なく突き刺さる。特に、本書に登場する男性たちが結婚時ほぼ例外なく「断種」(パイプカット)手術を強制的に経験していることには驚きを禁じ得ない。
ただし、過酷な経験が人生の全てかと言うと「違う」と著者は言う。失明し、指先を失い詩作に励む「てっちゃん」は、療養所で知り合った在日コリアンの女性らと旅を重ねる。ローマでカツレツを食べたなど「普通」の話がかえって新鮮だ。病の日常/非日常を兼ね備えた記録の価値が際立つ。
※週刊朝日 2015年9月25日号