「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。
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2月末になりました。医療的ケア児の17歳の長女は、今週は大学病院でのレスパイト入院中です。(※レスパイトケアとは、介護者の休息やリフレッシュやきょうだい支援などを目的に、病院や施設が一時的に介護を代替する短期入所のこと)
今回は私がPTA会長をつとめる学校のPTA年度末総会のために、レスパイトをお願いしました。「PTA行事のために子どもを預けるの?」と思われる方もいるかもしれませんが、レスパイトは日中のケアを託すだけでなく、介護者が夜間に深く眠ることができるという最大のメリットがあります。今回はレスパイトについて書いてみようと思います。
夜中に何度もアラーム音で
長女は夜間に人工呼吸器を使用して生活しています。人工呼吸器は命を守る機器なので、本人はまったく苦しくなくても、首を動かした時などにほんの少し接続部分の角度が変わるだけでアラームが鳴ります。多い時には1 時間に2、3回、アラーム音で目が覚めることもあります。2016年に厚生労働省が実施した調査では、人工呼吸器を使用した子どもを育てる介護者の53.5%が睡眠時間が5時間未満であり、さらに70.4%が断続的な睡眠しかとれていないと回答しています(2016年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究」から)。
夜間に、自分の身体のペースとは無関係に何度も起こされると、なかなか疲れはとれません。感染症など一時的な看病とは異なり、医療的ケアは日常です。私にとって長女は癒やしの存在でありとても可愛いのですが、慢性的な睡眠不足が続くと、イライラしやすくなるなどメンタルに響くことも実感しています。
そんな時にレスパイトをお願いできると心身ともにホッとします。我が家の場合、レスパイトを利用する時は、ほぼ私の仕事か大学に関することかPTA行事なので、忙しい時期に熟睡できる環境を持てることはとてもありがたいです。そして、子どもに障害があっても「母業」だけでなく自分の世界を持ち続けることができるというのは、障害児育児のモチベーションを上げることにもつながっています。