虎に話しかける蝦名さんを見て、当初、パートナーはいぶかし気だった。「猫と話しているなんてへんなやつだな」、そう思っている気配すらあった。だが、一週間も経たずに、「ホントだ、ちゃんとわかっている」と同意した。「元は犬派だったので、虎は話もわかるし、トイレは一瞬で覚えるし、家も汚さないし、『なんて暮らしやすいんだ!』と驚いていました」
虎は何を要求しているのかわかる鳴き方をする。見上げる眼差しも聡い。家の扉もノブにぶら下がって自在に開けた。特に驚いたのが、家具を組み立てていた時だ。
「組み立てたばかりの家具の引き出しを、虎が開けたんです」
その時の写真がこちら。こんなあどけない様子の猫が、引き出しを開けるなんて…!
3カ月後、虎の仲間にと保護猫を迎えた。サバトラ柄の子猫で、名前は景。
虎ははじめこそ、猫らしく抵抗し、「しゃあ」と鳴いた。だが、次の日の夜には、母のように行き届いたお世話をはじめた。
常に寄り添い、景が「みゃっ」とでも鳴こうものなら、昼寝を中断してでも駆けつけてぺろぺろ。生後1カ月半ほどだった景はそのお世話ですくすく育ち、すっかり虎の真似をするようになった。
「景はまだ小さかったから、生まれてからずっと虎と一緒だったと思ってるんじゃないかな。本当に完璧なお世話だったので、虎は疲れたかもしれませんね」
頼もしい兄貴がいつも傍にいたからか、景はなんでも虎の真似をする。その結果、「シンクロにゃいず」するようになったのかもしれない。
ただ、少しだけ違いがある。虎は要求があるとき、鳴き方を変えて鳴く。景はただ、真っすぐに鳴いている。何を求めているのか、蝦名さんにもわかりづらい。
「お兄ちゃんが何でも伝えてくれるから、景は困らないんでしょうね。ドアは開けられないけれど、ドアの前でにゃあにゃあ鳴いてます」