位階をもらった「名」のある猫
これを補完するかのような記述が、清少納言が記した『枕草子』にある。
猫の産養の半年後、一条天皇は定子とともに仮内裏にいた。火災のため焼け出されていたのである。彰子は入内し、すでに中宮となっていたが、まだ妊娠できる年齢にない。第一皇女・第一皇子を産んだ定子はひとまず安定していた。
帝の愛猫は「命婦のおとど」と呼ばれ、気ままに過ごしていた。「命婦」は従五位下以上の女官の役職名である。猫はなんと「かうぶり給ひて」(位階を授けられて)いたわけだ。清少納言は日本最古の「飼い猫の名前」を書き残したことになる。その日、大きな犬に追いかけられた「命婦のおとど」は帝の元に飛んで逃げ、帝は即座に犬を追放した。その犬が還ってくるまでの短い挿話である。
一条天皇は命婦のおとどを「御ふところに入れさせたまひて」いた。現代に通じる仕草だ。ひょっとすると、帝も時に猫を吸っていたのかもしれない。
(ライター・吉門 裕)
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