
寂聴さんがみせた「母性」
寂聴さんが「白黒分けられないグレー」と表現したことの背景には、「愛することは許すこと」という考え方があったのではないか、と瀬尾さんは思っている。
「許すことによって、その人を憎んでいる自分を解き放つことができるっていうことなのかなって。憎しみだったり、怒りだったりに執着するんじゃなくて、それを手放すことで、自分も楽になるよ、自分を愛することができるようになるよってことを、瀬戸内は伝えたかったのかなと思っています」
瀬尾さんが、寂聴さんに対して「唯一できた恩返し」と語ることがある。それは、2019年末に第1子を出産したことだ。
「瀬戸内って孫やひ孫はいますけど、外国にいらっしゃるので年に数回会うかどうかといった感じで、日々の成長を身近で見ることができなかったんです。でも、私は、長男を週に1~2回、寂庵に連れて行っていました。なので、瀬戸内は、ハイハイしたり、歩いたり、話したりできるようになっていく子どもの姿を初めて見て、すごく興味深かったようです」
子どもと過ごす寂聴さんを見て、瀬尾さんは「母性」を強く感じたという。これまで見たことのない寂聴さんの新たな一面だった。
「瀬戸内が長男のことを思った以上に愛してくれました。もともと、子どもがあまり得意じゃないと言ってたんです。『すぐ泣くからどうしていいかわからない』って。なので、私が子ども産んだとしても、あんまりかわいがってもらえないかなと思っていました」