いずれも、オックスフォード大で築かれた価値観や、同大でしか味わえない共通の体験が礎になっているのではないか。

 実際、同大での数年間が天皇陛下雅子さまそれぞれに、大きな影響を与えていることを示すエピソードは、枚挙にいとまがない。

 陛下は留学中、友人と気軽にパブを訪れるなど、皇室という特別な空間から離れて、一人の学生として過ごした。ロンドンのデパートではクレジットカードで買い物を楽しみ、ローマ字でのサインにも慣れた。誰かが常に身の回りの世話をしてくれた東宮御所での生活とは一変。自立心を養ったという。

 一時帰国した84年8月の会見では、ご家族と夜遅くまで留学生活について歓談したことを明かし、こう語っている。

「初めのころは失敗ばかり。洗濯機に下着を詰め込みすぎて、あふれたことも。次第に慣れ、今ではアイロンをかけるのも苦労はなくなった」

「自分のことは全部自分でしなければならない責任感も感じた」

 日常生活のみならず、学問や研究の面での苦労も多かった。

 前出の雅子さまのご学友、土地さんは、自身が留学しただけでなく、2人の娘もオックスフォード大に進学している。授業は、講義はあるものの対話型が多く、毎週、課されたテーマについて10冊前後の関連書籍を読み、リポートを提出しなければならない。指導教官とは徹底的に議論するという。

 海外での暮らしが長く、ハーバード大学を卒業している雅子さまでも、戸惑うことは少なくなかったようだ。

「指導教官との議論では、こてんぱんに論駁されるうえ、雅子さまは大学時代と専攻を変えたため、『大変なのよ』と話されていました」(土地さん)

 このころ交わした言葉も、実に雅子さまらしい。

 当時はちょうど、日本がバブルに向かっていった時期。雅子さまも土地さんも、渡英前は毎日深夜まで働いていた。それがオックスフォード大では、24時間のすべてを、自由に使えるようになった。

「まるで神様から授かった贈り物のようでした。『二度とない機会だから、勉強も社交もスポーツもとことん楽しもう』と雅子さまとお話ししたことがあります」

 そして、土地さんはこう付け加えた。

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