ミュージシャン・小説家として十分成功しているハズなのに、なぜか勝ち組の匂いが漂ってこない。それが中原昌也だ。いつも金欠で、テンションが低く、ヨレヨレのTシャツを着ているイメージが……そういう人物による人生相談である本書には「成功者による上から目線のアドバイス」は一切出てこない。だからこそ、人生相談としてはかなりユニークだし、読む気にさせる。
「あの人よりはマシ、と思って自分を慰める自分がイヤ」という悩みには「今の自分に満足してる人なんているんですか? 誰ですか? 叶姉妹ですか? いませんよ、そんな人」と言い切り、「MMK(モテテモテテコマル)」という相談者には「常にほっかむりしてるのはどうでしょう」と提案する。バカバカしいなあ(=最高!)。
その一方で、はっとするような言葉を口走ったりもするから油断ならない。「貧乏から抜け出したい! というハングリー精神で生きていった方がいいのか、それとも、貧乏なりに楽しみを見つけて生きていくのがいいのか」と問う相談者に対し「結局その両極端しかないんですかね。第三の道はないのかなあ。そういうことから解放されるために、映画や音楽や文学があると思うんですがね。違うかなあ?」と回答。あるいはまた「積み上がっていくばかりで本が読めない」という相談には「僕だって、持っている本の一〇パーセントも読んでないですよ。(略)そんな僕でも、こうやって物を書いてるんですよ」という正直すぎるお答えが。悩みへの応答を通じて、中原自身の芸術観が透けて見えるのが楽しい。
人生の悩みは、何らかの「規格」から逸脱してしまうことへの不安が引き起こすものだと思うが、中原は、人々を「規格」に押し込めようとする無言の抑圧にノーを突きつける。だから非常に風通しがいい。ぱーっと読めば、活力に変わる。なんだか、エナジードリンクみたいな一冊だ。
※週刊朝日 2015年9月11日号