昭和天皇の時代の園遊会の写真を見ると、昭和天皇をはじめ男性皇族はいずれもシルクハットと手袋を手にしている。2006年の園遊会では、グレーのネクタイと同色のシルクハットを手に、紳士然としてたたずむ皇太子時代の天皇陛下の姿がある。
当時、天皇家に仕えていた人物は、こう回想する。
「陛下は、クラシカルなハットの雰囲気がよくお似合いでした」
園遊会でシルクハットを最後に確認できたのは、東日本大震災の翌年、2012年春の園遊会だ。シルクハットと手袋を手にした当時の天皇陛下(現・上皇さま)が、宮城県の村井嘉浩知事らと言葉を交わしている。
この年の秋の園遊会以降、天皇と男性皇族がシルクハットを手にしている光景は消えたのだ。
英国に発注されるシルクハット
今や一般の場でシルクハットを見かける機会はほぼないが、皇室や海外王室では必須の小物だ。
野外の儀式や行事では、正礼装に帽子(ハット)を着用する。天皇陵の参拝では、天皇や男性皇族はシルクハットを手にしているし、天皇や皇族に仕える侍従もシルクハットを用いる。
そうした重要なアイテムであるシルクハットが、なぜ園遊会から消えたのか。
そのヒントは、着用の仕方にありそうだ。
英国大使を経験した人物は、こう振り返る。
「欧州の社交や儀式の場では、正礼装にシルクハットを頭に被るのが普通です。室内に入らない限り、手に持つことはありません」
ではなぜ皇室では、手に持っているのか。
宮内庁の関係者のひとりは、こう話す。
「天皇や皇族方は、英国の専門店にシルクハットを注文なさっています。しかし、英国人と日本人では頭の形が異なるため、どうも金型が合わない。シルクハットは硬い帽子のため、形が合わないとひどく痛みも出ます。皆さまが手にお持ちなのは、そうした事情も関係しています」