「十分に80点」

「正常に着陸するのであれば10回中7回くらいは精度10メートル以内に降りるだろうと見込んでいました。そういう意味では3~4メートルは『ちょっと良かった』かもしれないですが、特に驚くことはないというのが我々の受け止め方です」

 今回の着陸では、2基のメインエンジンのうち1基が機能せず、想定と異なる着陸姿勢となったことで一時的に太陽発電ができないなどトラブルもあった。それでも前出の中須賀教授は「十分に80点」と評価しつつ、こんな指摘もする。

「大切なのは、この精度を使って何をやるかです。ピンポイント着陸できることは実証されましたから、他の国も追随してきます。一番乗りしたことで終わりではなく、その先に向けたビジョンを追求してほしいですね」

 例えば、「水の地図をつくり、多くありそうな場所に降りて、水を掘る」というような活用が考えられるという。

「月のどこに水があるか明らかになり、使える形で取り出すことができれば水素を生成できます。月に燃料基地を置けるかもしれません。地球は重力の『井戸の底』で、そこを抜けるのに大きな負荷がかかります。月に燃料基地があれば、地球から直接行くよりかなり少ない燃料で火星や金星などに向かうことができるんです。深宇宙探査の新しい時代が来るでしょう」

 もちろん、遠い未来の話。それでも、今回の月面着陸がそんな宇宙開発の夜明けになるかもしれない。(編集部・川口穣)

AERA 2024年2月19日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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