宇宙航空研究開発機構(JAXA)が小型月着陸実証機SLIMの状況を確認していたところ、SLIMが月面に着陸したことを示す画面に切り替わった=2024年1月20日、神奈川県相模原市

 JAXAの小型月着陸実証機SLIMが世界初のピンポイント着陸に成功した。これによって、深宇宙探査の新しい時代が来るという。AERA2024年2月19日号より。

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 1月25日に開かれた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の記者会見冒頭、登壇した宇宙科学研究所の國中均所長はかみしめるように言った。

「小型月着陸実証機SLIM(スリム)は2024年1月20日0時20分に、100メートル精度のピンポイント軟着陸に成功しました。成功したことを確認しました」

月で何をするかの時代

 SLIMは高さ約2.4メートル、燃料を除く重量約200キロ。「小型月着陸実証機」の名の通り、日本初の月面着陸を目指して打ち上げられた小型探査機で、1月20日に月面への軟着陸に成功した。月面着陸成功は旧ソ連、アメリカ、中国、インドに次ぐ5カ国目。そして、ミッションの主目的だった着陸目標地点との誤差を100メートル以内とする世界初の「ピンポイント着陸」も達成、日本の宇宙開発に大きな足跡を残す結果となった。東京大学大学院の中須賀真一教授(宇宙工学)は今回の月面着陸をこう言い表す。

「これまではいわば、『月に行くこと』自体が目的でした。一方、これからは『月で何をするか』を目的とする時代に変わる、その幕開けとなる着陸だと言えるでしょう。それを日本が飾れたことは大きな成果でした」

 1966年に相次いで月面着陸した米ソの競争は、それ自体が世界の覇権争いの一要素だった。2013年の中国、23年のインドによる着陸も、月に行ける技術を誇示することに目的の一端が見え隠れしたという。

 一方、今回JAXAは「『降りやすいところに降りる』探査ではなく、『降りたいところに降りる』探査」を掲げてきた。従来の着陸は目標点と数キロ単位の誤差があったが、SLIMは100メートル以内を目標とし、実際に「目標地点から東に約55メートル」に着陸した。なおSLIMは設計上、高度50メートルまでは精度を追求、それ以降は安全を優先して着陸地点を調整する。ピンポイント着陸の成否には高度50メートル地点で行われる着陸精度評価の数値を用いるのがより正確で、そちらは目標点との水平距離が3.4メートル(1回目)と10.2メートル(2回目)だった。2回目はエンジントラブルの影響を受けたと推測されることから、JAXAでは3~4メートルの精度だった可能性が高いと判断している。プロジェクトマネージャの坂井真一郎さんは会見でこう胸を張った。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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