そんな様子が近ごろ、テレビや新聞などで報じられるようになった。
昨年5月、岩手県宮古市で開催された叡王戦第4局に臨んだ際、第三セクター「三陸鉄道(通称『三鉄』)」の宮古駅(同市)で、一日駅長を務め車両の運転体験もした。
昨年12月には、竜王の防衛を祝う会に出席するため秋田県大仙市を訪れた際、JR大曲駅(同市)で白い駅長制服に身を包み秋田新幹線「こまち」の出発合図を出した。その後、駅構内で初めての「除雪車両」運転も体験。構内の往復200メートルほどをゆっくり走らせた。体験後、終始笑顔でこう話した。
「ものすごく緊張したんですけど、重量感もあってすごく楽しかったです」
2001~03年、雑誌「将棋世界」の編集長を務め、『伝説の序章 天才棋士・藤井聡太』の著書もあるなど藤井をよく知る田丸昇九段(73)によれば、藤井は将棋を始める前から鉄道好きだったという。藤井は5歳で将棋を覚えているが、鉄道好きになったのはそれ以前だ、と。
「幼年期から藤井は、近所の踏切で電車を1時間も見ていても飽きず、電車に乗れば先頭車両の最前部に立ち運転士の気分になっていたそうです。自宅では鉄道玩具の『プラレール』を広げて遊び、小学校高学年になると、東海道新幹線や名古屋近辺の私鉄の時刻表をほとんど暗記したといいます」(田丸九段)
高校生になると、さらに行動範囲が広がった。
2018年、高校1年生の時。藤井は友人と2人で、普通列車が乗り放題になる「青春18きっぷ」で旅に出た。
「地元の愛知県から在来線を乗り継ぎ、中央線の小淵沢(こぶちざわ)駅(山梨県北杜市)に向かいます。そして、一番の目的であった小海線(こうみせん)の観光列車『HIGH RAIL(ハイレール)1375』に乗りました」(同)
小海線は、小淵沢駅から八ケ岳のふもとを抜け、小諸駅(長野県小諸市)までを結ぶ全長78.9キロの路線。JRでは最も標高の高い地点(1375メートル)を通ることでも有名だ。
「藤井は、八ケ岳や南アルプスの雄大な峰々やのどかな高原の景色を、車窓から眺めて楽しんだようです」(同)
(文中一部敬称略)(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年2月5日号より抜粋