「ジメ暑」の夜にはなんといっても「怖い話」が似合います。
この季節にはさかんにテレビなどで「怖い話」が語られます。
人間の業の恐ろしさにぞーっとして、いつしか暑さも忘れようという趣向なのですが、こうした「怪談ブーム」は江戸時代後期ごろから始まったようです。
夏と怪談、そこには「落語の神様」が深く関わっていました。

谷中・全生庵に残る三遊亭円朝墓
谷中・全生庵に残る三遊亭円朝墓

怪談── 「業」の物語

現在の落語のスタイルに大きな影響を与え、「文七元結」などの人情噺を創作したことで知られる三遊亭円朝(1839~1900)は、怪談噺も得意としていました。「牡丹灯籠」「真景累ケ淵」などの有名な怪談も円朝の創作です。
当時、「牡丹灯籠」などの口演は大人気で、これを記録した速記本などもベストセラーとなりました。この速記本の文体が明治の言文一致体にも大きく影響したというのが近代文学史の通説です。
「牡丹灯籠」などの怪談はさまざまな人物が入り乱れて、実に複雑な物語なのですが、大きなテーマは人間の「業(ごう)」です。
怪談にはなんといっても幽霊が欠かせませんが、命が尽きてもなお、なお残るその「業」や怨念が幽霊となって現れると信じられていたのです。

舌をなくしてはじめて名人となる

円朝は30代から“はや名人”と言われていたのですが、幕末の志士で有名な山岡鉄舟の前で演じたとき、「うまいが噺(はなし)が死んでいる」と言われ、鉄舟の禅の弟子になります。
禅の修行によって「舌で語るのではなく心で語る」とばかりに開眼した円朝は、鉄舟に「無舌居士」と号をつけてもらいました。「噺家は舌をなくしてはじめて名人になる」というわけです。
鉄舟は臨終の際にも、円朝を枕元に読んで一席語らせたといいます。
円朝は鉄舟が開いた、谷中三崎坂の全生庵に葬られています。
現在でも、円朝の命日である8月11日には「落語の神様」である円朝を偲んで「円朝まつり」も開かれます。

円朝の幽霊画コレクション

ところで、円朝は幽霊に大変関心をもち、幽霊画のコレクターでした。
その幽霊画コレクションを紹介する展覧会が開かれています。
伝円山応挙、柴田是真、河鍋暁斎、伊藤晴雨、鰭崎英朋らによる幽霊画の作品の数々に肝を冷やして、暑さをしばし忘れてはいかがでしょうか。
「うらめしや~、冥土のみやげ展 ―全生庵・三遊亭圓朝 幽霊画コレクションを中心に― 」
■東京藝術大学大学美術館 地下2階展示室
■入館料等のチケット情報はHP参照(リンク先参照)
■~9月13日(日曜)まで。月曜日休館
■10:00〜17:00(入館は16:30まで)
■8月31日までは全生庵でも幽霊画が展示されます