死者36人、重軽傷者32人――。2019年7月に起きた京都アニメーション放火殺人事件。戦後では最悪の犠牲者を出した殺人事件とみられている。殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)に対し、京都地裁は1月25日、死刑を言い渡した。筋違いの勝手な思い込みが動機となり、多くの人命を奪った青葉被告が犯行直前の「10数分間」に考えていたこととは。そして、青葉被告とフリースクール時代に一緒に学んだという男性が、これまでの裁判で見た青葉被告の現在とのギャップとは。
「主文を言い渡します」と裁判長が告げると、青葉被告は背筋を伸ばし、うなずいた。
「被告人を死刑に処する」
裁判長がそう言い渡すと、青葉被告はもう一度、うなずいた。
判決は「非人間的で理不尽な犯行」とし、「犯行当時は心神耗弱、心神喪失状態だった」との弁護人の主張を退け、責任能力があったと判断した。
判決によると、青葉被告は京アニ作品に感動し、小説家になりたいと思い、応募するも落選。その後、京アニ作品を見た時に「作品をパクられた」と思い込み、犯行に及んだ。
これまでの裁判では、放火直後に現場に駆け付けた京都府警の警察官と青葉被告のやりとりを録音した音声が公開された。
警察官に「なんでやった? 言え」と問われ、青葉被告は絶叫するように「パクられた」「小説、小説パクられたからやった」と瀕死(ひんし)の状態で答えた。
この妄想が大きな動機の一つ。そして、裁判ではもう一つの“動機”が明らかになった。
加藤智大元死刑囚に傾倒
「かねて共感していた秋葉原の殺傷事件を参考にした。京都アニメーションに打撃を与えるため、メッセージ性のある事件を計画した」
判決でも認定されたが、青葉被告は法廷でも秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大(ともひろ)元死刑囚に傾倒していた。
2008年6月、日曜の正午過ぎの東京・秋葉原の繁華街に、加藤元死刑囚がトラックで突っ込み、5人をはね、ナイフで通行人を無差別に襲った。男女7人が死亡、10人が重軽傷を負った。死刑判決が15年に確定し、22年7月に刑が執行された。