(撮影/加藤夏子)

あえてモノクロの映像

前田:監督自身が本当に過去のことを客観的なものとして話してくれているのが、すごく印象的だったので、れいこを演じる上で「私だけがかわいそう」みたいには、ちょっと思いたくないなという気持ちが大きかったですね。いろんな悩みを抱えている人は世の中にたくさんいるけれど、そういうふうに見えない人こそ何かを抱えていたりするっていうのはよくあることなんじゃないかなって。だから私が演じたれいこも、一見そういう風には見えないのではないかと思ったんです。

 れいこは、「トト・モレッティ」と名乗るレンタル彼氏を生業にしている男性に声をかけられます。たまたま出会った相手がそういう人だったから、話しやすく、話すきっかけになって、れいこは最後に自らの心の傷を話していますけど、蓋(ふた)をして生きようと思えば生きていられるような女の子だと思います。

(撮影/加藤夏子)

―三島監督自身が性暴力被害にあった時、目の前の世界は色を失ったという。その経験から、前田さんが登場する大阪・堂島編はあえてモノクロの映像にした。

三島:そういう経験ってありませんか。例えば失恋でもいいと思うんですが、世界が閉じた、突然暗闇になってしまったといったような。小さいかもしれないし、大きいかもしれないですけど、傷を持ってしまって社会や自分との距離が生まれた感覚の時、そんな感じなのでは、と。特に日本人は罪の意識を持ちやすい方だと思います。

前田:自分に変換して、自分が悪いと思いがちですよね。

三島:すべての、心に傷を持つ、そういう人たちに届いてほしいですね。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2024年1月29日号

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