(撮影/加藤夏子)
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 性暴力と心の傷を描いた三島有紀子監督の最新作が公開される。幼少期に性被害に遭った女性を演じた前田敦子さんが三島監督と語り合った。AERA2024年1月29日号より。

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―2019年の「映画芸術」(469号)で総勢60人の映画人たちが、映画に関わることになった理由を告白している。その中で三島有紀子監督は、6歳のころに経験した性暴力被害について明かした。三島監督を救ったのは映画だったという。〈とにかく、映画がある。今度あの映画を見るまではとりあえず死ぬのはやめよう〉。衝撃だった。

 三島監督の長編映画10作目にあたる「一月の声に歓びを刻め」(2月9日からテアトル新宿ほか全国公開)は、三島監督自身が幼少期に受けた性暴力事件をモチーフに、「洞爺湖」「八丈島」「大阪・堂島」の三つの舞台で物語が紡がれていく。前田敦子さんは、「大阪・堂島」で幼少期に性被害にあって、恋人とも身体を重ねあうことができなかった、れいこを演じた。

三島有紀子(以下、三島):性被害や性暴力というのは、本当に複雑です。それぞれ個人の体験と出来事として、どういう傷を受けてどういう罪の意識が生まれていくのか、そういう中で人間を見つめていこうと思いました。私は映画を作っている人間なので、映画を通してそのことがお伝えできたらいいと思いました。

じっくり向き合って

前田敦子(以下、前田):三島監督とは絶対ご一緒したいとずっと思っていたのですが、ポップな明るい作品だったら「やります!」というようなノリで答えられるでしょうけど、そういう内容ではないので、今の自分がこの役をやれるかどうかを自問自答しました。1カ月ぐらい考えさせてもらって、この作品を作ることに三島監督の迷いがないことを感じて、これは絶対に私が参加しても大丈夫だって思うことができました。

三島:すぐにお返事いただかなかったのが良かった。じっくり向き合って考えてくれたんだなということがわかりましたから。前田さんにオファーした明確な理由は二つあります。一つは、同じ志を持って作品を作ってくれる、つまりその映画を愛する気持ちと、その映画を作っている人を愛してくれる人だということです。今回は特にそういう人にやってほしかった。

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