こういう現象=女が性被害の声をあげた女を叩く現象のことをなんて言うのだろうと考えていたのだが、「被害者フォビア」というのが、ぴったりではないかと思う。フォビアには嫌悪や恐れという意味があるが、被害者になることを恥じて恐れるあまりに、自らが被害者になってもそれを認めることができず、さらに被害を訴える人に対する嫌悪をぶつけてしまう心理状態だ。特に性暴力や性搾取に関して、「被害者フォビア」としか言いようがない女性たちは少なくない。いったい、なぜなのだろう。

 古い話だが、小説家の松浦理英子さんが1992年に「朝日ジャーナル」に寄稿した、「嘲笑せよ、強姦者は女を侮辱できない」というエッセーがある。今となっては忘れられたテキストだが、長い間、日本のフェミニストに読み継がれてきた。

 簡単にまとめれば、“性暴力が女への侮辱だと捉えること自体が性加害者の思うつぼである”だからこそ「レイプなんて何でもない」とレイピストを嘲笑すべき”ということが、「強姦ごとき」というような強い言葉を使い、激しい口調で記されていた。もちろん、性被害者を攻撃する意図はなく、性暴力抗議として書かれたものではあるが、当時、かなり物議を醸したものだ。

 当時、このエッセーを誰よりも評価したのが上野千鶴子さんだった。だからこそ、大学生だった私も、意味わかんなーいと頭を抱えながらも何度も読んだものである。

 上野さんは松浦さんのこの寄稿文を権威ある『新編日本のフェミニズム』(岩波書店2009年)の「セクシュアリティ」巻に収め、「私でなければ誰も採用しなかったと思う。彼女の発言は、空前絶後、追随者がいない」「(いまだに)性暴力に関しては、『性暴力で女は傷つく』っていうポリティカル・コレクトな言説しか、言うことを許されてない」(『毒婦たち』河出書房新社、2013年)と話している。実際、多くの有名どころのフェミニストは、この松浦さんのテキストを肯定的に引用し本を書いたり発言したりしてきたものだ。

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昔のフェミニズムって乱暴でしたよね…