作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は松本人志さんの件で考えた、被害の声をあげた女性を女性が激しく叩くことについて。
【写真】大物芸人に「枕営業」を迫られたと告発した女性タレントはこちら
* * *
遠い知人の話である。
今は50代の女性だが、30年以上前には芸能界を目指していた時期があり、実際にテレビや雑誌に出たこともあった。ちょうど売り出し中の頃、同じ番組に出演していた某男性大物芸能人に「食事に行かない?」と誘われたことがあるそうだ。そんなチャンスはめったにないと思い、彼女は「もちろんです!」と答え食事に行った。食事が終わると、今度はその男性に「二人きりにならない?」と言われ、躊躇はしたが、将来につながるかもしれないと思い、誘われるままホテルに行き性交したという。もちろんだからといって彼女の芸能活動に、そのことは全く何の影響も与えず、彼女はしばらくして芸能活動を諦めることになる。
そんな彼女は今回の松本人志さんを巡る報道に、モヤモヤするのだという。「女にも、下心があったはずだ。被害者ぶるのは、ずるい。イヤならイヤと、その時に言えばいいんだ」と。
胸の痛い話である。
性被害の声をあげた人に対し、「目的は何だ?」と疑いの目を向け、「何で今になって騒ぐのだ?」と声をあげた時期を問い、「イヤなら断るべきだった」と行為の責任を問うことなどを「セカンドレイプ」と呼ぶと定着はしてきたけれど、それでも、彼女のように、客観的にみれば性的搾取にあっているとしか思えない女性が、同じような目にあった女性を激しく叩くことを、何と呼ぶのだろう。もしかしたら専門的な言葉があるのではないかと思われるほどに、あまりにもよくある話である。
女子プロレスラーのジャガー横田さんYouTubeチャンネルを観た。「松本○志は悪くない!!」と動画にテロップをつけ、「(女性が)ヤダって言えばいいじゃん」「お前が断れよ」などと述べた。ジャガーさんは、肩を組んでくる男性ファンには「私は結婚しているので、やめてください」とキッパリ断るのだとも言ってた。このように「私は断れる」と言い切り、「なぜ断れないのか?」と性的被害を訴えた女性を責めるのも、「強い女性」によく見られる傾向だ。