東京工業大学の益一哉学長(写真/編集部・米倉昭仁)
東京工業大学の益一哉学長(写真/編集部・米倉昭仁)

 島根大は材料エネルギー学部に物理が不得手な学生が入学することも想定して、それをケアする授業科目も準備している。

社会を変えようとしている

 冒頭に書いたように、東京工業大学は24年度から女子枠を設ける。選抜方式は共通テストを課す総合型と学校推薦型で、募集人員は58人。翌年度にはその枠を143人に増やす。この数は他の大学の女子枠よりも圧倒的に多く、波紋を広げた。なぜ、東工大はこれほど大胆に女子枠を設けたのか?

 すると、同大の益一哉学長は、こう答えた。

「この30年間の日本経済の停滞からどうやって抜け出すのか。そういう大きな問題への対応の一つと考えています。問題解決のためには新しい産業をつくっていかなければならない。今、世界経済を成長させているのはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表されるような巨大IT企業やバイオ企業です。ところが、これまでの東工大を振り返ってみると、そんな新しい産業を生み出す動きに欠けていた」

 それがいったい、どう「女子枠」と結びつくのか? 

「イノベーションの源泉は多様性にあります。つまり、革新的なことは画一的な集団ではなく、多様な人が集まるなかで起こりやすい。その点、留学生は着実に増えている。ところが、女子学生は2000年代以降、ぜんぜん増えていない。日本の停滞と並行している。もちろん、努力はしてきました。女子中や女子高にも足を運んで、理工系の面白さを伝えようとしてきた。それでも増えなかった。であれば、さらに一歩を踏み出す必要があった」

 これだけ大きな女子枠を設けることが、社会へインパクトを与えることは十分承知していたという。

「賛否両論あることはわかっていた。でも、このままではだめだろうと、注意喚起をしたかった。われわれがそれをやらなければいけないという責任を感じていた。その決断をできなかったことが日本の停滞を引き起こしてきたと思うから。そんなわけで、今、ぼくらは社会を変えようとしている」

 益学長は大学のパンフレットを開き、そこに書かれた「東工大コミットメント2018」を指さした。そこには「多様性と寛容」「協調と挑戦」「決断と実行」とあった。

「これは、ぼくが学長になった5年前に書いたんです。多様性を認め、お互いを尊重して協調しなければならない、と。でも、それだけじゃあ、だめで、挑戦する心を持たなければならない。そして、決断して実行する。ここまでやらなければだめなんだ」

 多様性を増す試みは女子枠の設置だけではないという。

「東京医科歯科大学との統合もそう。いろいろな経歴の人が集う大学になって、日本の社会を変えるけん引力にならなければならない。女子枠については、本当に全国に広がってほしい」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?