夫の翔太さんと、飼い猫「てんちゃん」との家族写真。震災の日、夫の翔太さんは命を落とし、てんちゃんは行方が分からなくなっている

 能登半島地震で震度6強を観測し、死者が80人を超える石川県輪島市で、記者は夫を亡くした一人の女性に出会った。夫が生き埋めになっていた自宅に記者を同行させてくれた女性は、「被災者の生の声を伝えてほしい」と語った。夢を叶えようと、2年前に輪島に移住した夫婦の別れは、あまりに突然だった。

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 震災直後、避難所となっていた輪島市役所(現在は避難所機能は終了)。部屋の隅で身を寄せ合っていた数人の女性のなかに、末藤佳織さん(39)はいた。地震による自宅の倒壊で、夫の翔太さん(40)を失った。

 まだ取材に応じてもらえる状態ではないだろうと一瞬戸惑った記者に対し、佳織さんは、翔太さんが亡くなった経緯をきちんと整理して、淡々と説明した。

 そのあまりの落ち着きぶりを少し不思議に感じ、理由をたずねると、

「急に悲しくなることはあるんですけど、すぐに気持ちが無になるんですよ。たぶん、感情を止めているんだと思います。今はまず、夫の遺体をちゃんと送り出してあげなきゃいけないから、そこで理性を保っている感じです」

 そして佳織さんは、「翔ちゃんなら、災害で犠牲になった人の姿を外の人に伝えたいと思うはず」と、自分たち夫婦のこと、そして翔太さんが亡くなった時の様子を事細かに話してくれた。

「爆弾を下から受けたような」

 1月1日16時過ぎ。

 自宅にいた末藤さん夫婦は、大きな揺れに見舞われた。佳織さんは平屋建て構造になっている寝室に、翔太さんは廊下奥、上に2階がある1階部分の部屋にいた。

 揺れがおさまると、翔太さんがすぐに寝室に来て、「けっこう揺れたね」と言いながら、佳織さんを後ろから抱きしめた。

 ただ、飼っていたの“てんちゃん”が揺れに驚いて隠れてしまったため、翔太さんは「ケージに入れないと」と言いながら、元いた部屋に戻った。

 その直後、まるで「爆弾を下から受けたような」激しく突き上げる揺れが起きた。1回目よりはるかに大きい揺れだった。寝室の壁や床は波のように大きくうねり、ふすまが倒れてきた。

 少し揺れが弱まり、佳織さんが「翔ちゃん、私は大丈夫だからー!」と叫ぶと、姿は見えないながらも、廊下の奥から翔太さんの「分かったー!」という返事が聞こえた。

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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「(夫は)どういう状態なんですか」の問いに自衛隊員は……