■稽古での気づき多い
──演劇ならではの楽しさを感じる瞬間について尋ねると、「学んでいくことが好き」という加藤らしい答えが返ってきた。
加藤:みなでものを作り上げ、表現していく楽しみはもちろんありますが、稽古を通しての「気づき」が多いことが演劇の楽しみにつながっています。稽古場で同じセリフを言い続け、同じシーンを演じ続けるなかでの気づきが演劇は圧倒的に多いんです。
稽古を重ねるたび、「自分一人ではどれだけ台本を読めていなかったのだろう」と思わされますし、どんどん台本を掘り下げていけるようになる。そうした意味では「身体を通した読書体験」と言えるかもしれません。身体に感情やセリフを落とし込み、いかにうまく表出させられるかはまた別の課題ですが、ただ「悲しい」だけでなく、なぜ悲しいと思うのか、物語の複合的な流れが稽古を通して見えてくるようになる。
「エドモン」で言えば、描かれていない部分が稽古を重ねるたびに埋まっていく。本当の意味で台本が読めるようになり、演じるキャラクターが深みのある人間になっていく過程は、何度経験しても楽しいなと感じます。
──「演劇は、稽古にゆっくり時間をかけられるのも魅力」という。
加藤:それでいて、刹那的でもありますよね。2、3週間の上演のために時間をかけ稽古し、同じ公演は一つとして存在しない。ドラマであれば、多くの場合、一度演じればそれで終わりですけれど、演劇の場合、上演のたびに振り出しに戻り、ゼロからスタートする。毎回タイムリープするので、面白いなと。そんな“終わりのある刹那”に魅了されているのかもしれません。
実は、初めて小説を書いたときは、「小説家を演じる」という気持ちで書き始めたんです。「小説家はきっとこんな時間に、こうした文章を書いているんだ」と、どこかで小説家を演じながら書いて生まれたのが『ピンクとグレー』という作品です。幻影を追いかけるという意味でも「エドモン」に重なりますし、運命的なオファーを頂いたのかなといまは感じています。
(構成/ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2023年4月3日号
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