もちろんそれだけで十分に魅力的な人であるのは周知のことですが、紅白のような異次元の舞台では、忸怩たる表現や感情の葛藤が終始自家中毒のごとく、彼の体内でぐるぐるしていたことでしょう。広く「お笑い」とくくっても、有吉さんはボケ倒したり、ふざけ回ったりするキャラではなく、ましてや細かく突っ込めるレベルの「ボケ」は、あの場には存在しません。

 なぜなら「紅白歌合戦」そのものが、実は巨大な「ツッコミ対象」であるからです。

 番組としては、とても見応えがあった紅白でしたが、最後の最後に紅組・白組の勝敗を決めた後、ステージ後方に「ボーダレス!」という今回のテーマが書かれた巨大な横断幕が広がっていました。渾身の「大団円(大オチ)」と言えるでしょう。

 過度な説明はせず、観ている人たちに感じさせるのがテーマというものです。しかし、その「ボーダレス」を、最後の最後に文字で表示してしまうというのは、番組として「ボーダレス」を体現することへの、ある種の「白旗」と捉えられても仕方ないぐらい無粋な画でした。

 だからといって、それを悪いともダメだとも思いません。そもそも「ボーダレス」なんて曖昧で無責任な横文字でお茶を濁そうとするから、こんなことになるのです。本気で「ボーダレス」を実現したいのならば、まずは保守的な「ボーダー」をきっちりと線引きして、区別して、窮屈な設定をすることです。線や枠組みを超えようとするエネルギーは、そこからしか生まれません。

 もちろん「ボーダレス横断幕」には、さすがの有吉さんも気付いていない様子でした。しかしこれが紅白です。これぞ紅白です。とりあえずこの漠然としたテーマやワードが、全国のお茶の間に届けられる。良かれ悪しかれ、意味はあってもなくても、これが日本の年越しの儀式なのだと思います。
 

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