「観る将棋ファン」からは、伊藤匠はファッションセンスもいいという声も聞く。「だいたいもう、家族に全部任せてます(笑)。ファンの方からいただいたネクタイを使うことも多いです」(撮影/横関一浩)

「わりと覚えてすぐに、三軒茶屋の教室に通って。そこからは本当に、ほとんど毎日通っていたような気がします」

 伊藤は2008年の竜王戦七番勝負、渡辺明竜王-羽生善治名人戦(肩書は当時)が強く印象に残っているという。

「渡辺先生と羽生先生が永世竜王をかけたシリーズの本を買ってもらって、棋譜をよく並べてました」

 渡辺竜王に指導対局をしてもらった際、著書『永世竜王への軌跡』にサインをもらった様子も父は写真を撮って残している。藤井と伊藤は子ども大会で実績をあげ「天才少年」として広く名を知られた。両者は小3の時、全国大会の準決勝で初めて顔を合わせた。

「棋譜は残っていませんが、相横歩取りでした」

 結果は伊藤の勝ち。藤井は対局後、大泣きしたという。

「自分で見たわけではないのでそれは覚えてないんです」

 伊藤が決勝で対戦したのは三軒茶屋でしのぎを削りあった川島滉生。結果は伊藤の負けだった。

「小1ぐらいが(同世代の中では相対的に)一番強くて。そこからは下り坂で、高学年の頃には全国大会にも行けてなかったですし」

 伊藤ほどの才能の持ち主でも子ども大会で無敵ではなかった。それほどまでに将棋の世界は厳しい。川島は棋士を目指さない道を選び、現在は早稲田大学に進学。学生強豪として活躍を続けている。一方、伊藤は棋士を目指した。

 時を経て2022年。父はXに、次のように投稿した。

「5歳のときに『恐竜キング』の変身ベルトを欲しがっていた長男に将棋の盤駒をあげた自分の選択は正しかったのか、恨まれてないかは謎だ」

(構成/ライター・松本博文)

※AERA 2024年1月15日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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