話を元に戻しましょう。こうしたトラブルはあくまでも一般的な話で、歯を抜いたすべての患者さんに起こるかというと、そうではありません。実際、「歯を抜いてそのままにしているけど、何の問題もなくかめている」という人は多いのです。残っている他の歯が補ってくれるからです。

「インプラントをしようかどうか迷っている」

 患者さんが経過を見ているうちに、

「先生、とくに困らないので、インプラントはやめます」

 ということもあります。

 抜いた場所に隣の歯や対合歯が移動してくるかどうかも、その人の歯並びやかみ合わせ次第です。例えば対合歯が、抜いた歯の隣の歯と接触している場合、それがストッパーとなって、対合歯は伸びてこないことが多いです。

 さらにいえば、動くスピードにも個人差があります。一般的には歯を抜いて2、3年たつと空いた場所に歯が移動することが多いですが、中にはほとんど移動しないままの人もいます。骨の代謝に個人差があることも影響しているでしょう。高齢者に比べると若い患者さんのほうが、歯の移動が早いです。

 また、奥歯を抜いた場合は、隣り合う奥の歯が倒れてくることはあっても、隣の手前の歯が倒れてくることは滅多にありません。

 ここでイメージしてほしいのが、奥歯のうち、一番後ろに生えている大臼歯(だいきゅうし)です。当然、それ以上、奥には歯がないので、抜いても、スペースは空いたままということになります。

 一方、ここは部分入れ歯やブリッジができない場所です。部分入れ歯は固定のための金属(クラスプ)を引っかける歯が必要ですし、ブリッジは両隣の歯がないと基本的にはできないからです。

 このため、この部分の歯を抜いた場合、「インプラントしか選択肢がない」といわれることも多いのですが、繰り返しお話しするように、「将来、大きなトラブルが起こらない」と予測できれば、「インプラントを入れなくてもよい」というのが正しい答えになります。

 さらにいえば、対合歯も重い歯周病で、いずれ抜歯となる可能性が高い場合、上下どちらも歯がなくなるので、かみ合わせには完全に問題はなくなります。つまり、歯を補う必要はありません。

暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?
次のページ
「すべての歯を残さなければならない」ことはない