歯周病や重度のむし歯で歯を抜くと、インプラントや入れ歯など、歯を補う治療を提案されます。なぜ、抜いた後は歯を補う治療が必要なのでしょうか。歯を抜いた後、そのままにしておいてはいけないのでしょうか。歯周病専門医で若林歯科医院院長の若林健史歯科医師に聞きました。
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失った歯を補う治療には、インプラント、ブリッジ、入れ歯(部分入れ歯)と大きく三つがありますが、四つ目の選択肢として、「抜いた後に何もしない」という方法があることも知っておく必要があります。ただ、一般的には歯を抜いたままにしておくとよくない、とされています。まずはその理由にはどのようなものがあるのかを解説していきましょう。
第一に見た目の問題です。前歯や犬歯など笑ったり、話したりしたときに歯がないことがわかるのは、患者さんも嫌でしょう。
次に、食べ物などがかみにくくなることがあります。右の歯が抜けたので、左でかむ癖がつく、という具合にかみ方に偏りが生じるケースがあります。
また、抜いた後の空いたスペースを埋めるように、隣の歯が倒れてきたり、空いたスペースに反対側の歯(下の歯を抜いた場合は上の歯)、専門的には「対合歯」と呼ばれるものが伸びてくることがあります。
参考までに、歯が動くメカニズムは、歯の土台となっている歯槽骨(しそうこつ)が、からだの他の部分の骨と同じように、常に新しく生まれ変わっているからです。いわゆる新陳代謝です。骨の代謝には新しい骨を作る「骨芽細胞」と、古い骨を溶かす「破骨細胞」の働きが必要です。
歯と歯槽骨の間には歯根膜という厚さ約0.3㎜のコラーゲン組織があります。普段は食べ物をかむときに歯にかかる力を吸収・緩和するクッションの働きをしています。歯に力がかかるところの歯根膜が刺激を受け、破骨細胞が働いて古い歯槽骨がなくなります。逆に歯根膜が引っ張られ、すき間ができたところでは骨芽細胞が働き、その部分に新しい骨ができます。このような形で骨の位置が少しずつずれると、その上にのっている歯も動くのです。
歯を抜いたことでかみ合わせやあごの動きが変わり、残った歯への力のかかり具合に変化が生じることで、こうした歯の移動が起こります。なお矯正治療はこうした骨の代謝を利用しておこなう治療です。