PacELF 制圧記念プレート贈呈式でバヌアツ政府保健省代表と=2023年12月、バヌアツ保健省提供

 サモアに最初に行ったときからうすうす考えていたことを「太平洋リンパ系フィラリア症制圧計画(PacELF)」という形にして企画し、バヌアツで6年勤務したあと2000年にフィジーを拠点としてプログラムをスタートさせた。私がチームリーダーです。まさに「満を持して」っていう感じでしたね。

――2006年には本部ジュネーブ(スイス)に異動になったんですね。

 はい、そこでは「顧みられない熱帯病(NTD)部」に入り、2010年には「世界リンパ系フィラリア症制圧計画(GPELF)」の責任統括官になった。地球からフィラリアをなくすという頂上を目指し、作戦指針を策定し、計画を指揮する責任者です。

 2013年に定年を迎えて、日本に帰ってきました。もう体力的にも第一線でやる力はないから、記録を残すのが仕事だと考えていた。長崎大学熱帯医学研究所で客員教授になり、「日本顧みられない熱帯病アライアンス(JAGntd)」を長崎大につくり、2019年には蚊への理解を深めるイベント「ぶ~ん蚊祭」を開催しました。さまざまな専門家から原稿を集めて『きっと誰かに教えたくなる蚊学入門』という本も作った。

 本当は、私が持って帰った資料や文献を保管できる資料室みたいなものも長崎大につくりたいなと思ったんだけど、難しくて。ジェームズクック大に話を持っていったらすごく喜んでくれて、「うちで預かります」って、私のライブラリーを一部屋つくってくれた。一盛コレクションもその中に入って、全部デジタル化して、世界中からフィラリアに関する情報はそこに集めるみたいな形にして。

――お~、それは大事なことですね。

 そうなんですよ。人類の財産じゃないですか。ロンドン大で一緒に学んだパトリシアがいたからできたことですけど、なんで日本じゃないのかなとちょっと残念な気持ちはあります。

 でも、太平洋の蔓延国16カ国中、8カ国でフィラリアはなくなりましたから。すごいでしょ? 世界でだってもう19カ国でなくなった。アフリカのトーゴ、マラウイだってなくなった。バングラデシュだってなくなるんだから。対策が終わってから制圧という認定が出るまでちょっと時間差があるんですけど、とにかくやればできるんですよ。世界中でみんなすごく一生懸命やっているのが本当に嬉しく、すばらしいことだと誇りに思います。

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高橋真理子

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ)/ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネータ―。1956年生まれ。東京大学理学部物理学科卒。40年余勤めた朝日新聞ではほぼ一貫して科学技術や医療の報道に関わった。著書に『重力波発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ』(新潮選書)など

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