そして今年9月14日、本拠地甲子園巨人を相手に18年ぶりにリーグ優勝を決めたとき、グラウンドで最も号泣していたのがほかでもない大山だった。

「大山の涙には正直驚きました。やっぱり4番としてのプレッシャーを感じていたのでしょう。大山は真面目です。岡田彰布監督が『大山の周りには人が集まってくる。だから4番にした』と話していました。4番というのは仲間に信頼されなければなりません。大山は外からは見えにくいところで、練習や準備をきっちり黙々とできる選手です。チームリーダーの役割も十分果たしました」

 第1次岡田政権(04~08年)以降、猛虎打線の4番は金本や新井貴浩、福留孝介ら移籍組と外国人がその座を占めており、いわゆる「生え抜き」が開幕4番に座ったのは大山が初めてだった。さらに今年、大山は初めて全試合を4番で先発出場した。これは掛布、金本に続く偉大な系譜となる。

 この点について掛布さんは、「さかのぼれば星野仙一監督が、金本というすごい選手をとってきたことに始まります。金本が一塁までの全力疾走を貫き、走ることの大切さを阪神に根づかせてくれました」

 1492試合に連続フルイニング出場する前人未踏の記録を打ち立て、“鉄人”と呼ばれた金本。自らの引退会見で、最も誇れると語ったのが「連続無併殺記録」(1002打席)だった。内野安打になりそうなら誰でも懸命に走るが、チームのためにどんな状況でも走れたのが金本だった。

「僕がこの1年間、阪神の戦いぶりを見てきて他球団との違いを一番感じたのが、一塁への全力疾走です。大山もどんな場面でも全力で走っていました。これは金本の残した財産ですね」

 シリーズ第4戦、五回裏1死一、三塁で遊ゴロを放った大山は一塁まで全力疾走して併殺をまぬがれ、1点をもぎとった。今年1年間続けてきた「普通」の野球をシリーズでも貫いた末の追加点。サヨナラ打に劣らぬ貴重な1点だった。(文中一部敬称略)(ライター・守田直樹)

※AERA増刊 「アっぱレ日本一!阪神タイガース2023全軌跡」より抜粋