試合後に審判を取り囲んで威嚇する北朝鮮の選手たち(写真:新華社/アフロ)

北朝鮮のホームのような雰囲気で、日本代表への強いプレッシャーが心配されていました。同時に、北朝鮮代表にとっても『絶対に負けられない』というプレッシャーがありました。そもそも、代表にとっての試合は『戦闘』です。実際に代表選手の大半が軍人であり、北朝鮮で最も強いサッカーチーム『4.25体育団』を運営しているのも軍です。ちなみに4.25というチーム名は朝鮮人民軍が4月25日に創建されたことに由来しています」(同)

 そんな重要な試合で、北朝鮮代表は敗れてしまった。SNSで指摘があったような「炭鉱送り」や「粛清」は実際に行われるのか。

「国際試合で成果を上げられなかった監督や選手が、収容所や炭鉱、地方に送られたことがあったのは事実です。ただ、そんなことがあったのは90年代まで。2010年のW杯では、北朝鮮代表として、当時は川崎フロンターレでプレーしていた鄭大世さんが選ばれましたが、それにより北朝鮮のサッカー界の現状が彼の証言から伝わるようになりました。世界と自分たちの彼我の差を冷静に受け止め、めちゃくちゃな人事などは行われていない事実が明らかになったのです」(同)

 とはいえ、スポーツマンシップという理念からは遠いプレーが乱発されたことは重い。辺氏は北朝鮮の現体制が抱える問題点を象徴する出来事として、ディフェンダーの選手による「ドリンク強奪」を指摘する。

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日本側のドリンクを「強奪」した理由