そんな親方の影響もあって、大麒麟さんの武士道にも火がついて謀反を起こしたんじゃないかなと思っている。俺だってこの騒動の当日の早朝、十数人でタクシーに乗って谷中に向かっている途中、「すごいことになる……」という気持ちから、高揚感がすごく血沸き肉躍ったことを覚えている。新鮮組のような気分だったよ。

 その後の押尾川の名跡はてっきり大麒麟さんについていった青葉城が継ぐのかと思っていたけど、結局、他の部屋の力士が継ぐことになった。なんであのときついていった青葉城にぽんっと譲れないのかね。

 この騒動で二所ノ関部屋にも居づらくなってプロレスに転向するわけだけど、ジャンボ鶴田に言われた言葉は今もよく思い出す。

ことあるごとにジャンボ鶴田は

 ジャンボはことあるごとに「源ちゃん、プロレスなんてこの先どうなるか分からないんだから、今からお金をちゃんと貯めておいた方がいいよ」ということをアドバイスしてくれた。

 俺の散財ぶりを心配してくれてのことだったんだと今にして思うが、相撲界の金銭感覚だった俺は「なにチンケなこと言ってんだよ~」と右から左へ聞き流していた。

 そもそも、俺は相撲入門直前に親父から「最後の贅沢になるかもしれないから、これで好きなものを買って来い」と千円を渡され、当時1枚15円くらいだったアジフライを千円分買ってきたほどの金銭感覚の持ち主だ。

 親父には「なにやってんだ馬鹿野郎!」と怒られたね。その数カ月後には相撲部屋に入って、よくしてくれる人からステーキをご馳走になり、1万円の小遣いをもらうという生活になるんだけど、千円分のアジフライを買う10代のあんちゃんがそんな金を手にしたら金銭感覚がおかしくなるよ。当時は中華料理屋で千円分食べるのだって大変な量になるような時代だ。

 そうやって世間一般の年にそぐわない金を手にしているから、プロレスに転向したときは「しょぼいなぁ~」と思ったよ。だからジャンボの助言なんて聞きやしない。

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