しかし、それも誤差の範囲であるとも言える。ここまで述べたことをひっくり返すようだが、個人的には、個々の審査員の審査傾向を細かく分析することにそれほど意味はないと考えている。

 何しろ7人もいるので、それぞれの好みは中和されて薄まっていき、結局のところは単純にその場で一番ウケた芸人が優勝しているのではないかと思う。ただ、こういうことも含めて、何でもあれこれ語り合うこと自体が『M-1』の醍醐味でもあるので、それを否定はしない。

 最後に、優勝予想について。この時期になると、競馬の予想屋のように優勝者は誰になるのかとたびたび聞かれるが、とにかく決勝のその日に一番面白い人が勝つだけなので、始まってみないとわからないところはある。

 それでもあえて言うなら、本命はやはり昨年準優勝のさや香だろう。正統派のしゃべくり漫才師であり、その技術力と熱量は圧倒的。ウエストランドという伏兵さえいなければ、昨年優勝していてもおかしくはなかった。

 その対抗馬となりそうなのは、予測不能なアドリブ漫才のモグライダー、切れ味鋭いボケを放つ真空ジェシカ、爆発力があるダンビラムーチョ、クセになる魅力を秘めたコント漫才のヤーレンズなどだろうか。

 もちろんそれ以外のファイナリストにもそれぞれの強みがあるし、敗者復活戦の勝者も気になる。今年はどんなドラマが生まれるのか楽しみだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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