「一月の声に歓びを刻め」から、主演の前田敦子(写真/東京テアトル提供)

「それまでの建物が取り壊され、ズドンと風景が見えた。そこは1975年の事件現場だった。私は固まった。どうしたの? とスタッフに聞かれ、事件のことを説明している自分がいた。(私は普通に『あの事』を話せている)と思った瞬間からこの映画が始まった」

 自分はこれまでどう生きてきたか。そんな作家性が重要視される自主映画という形を選び、三島と目される女性を前田敦子が演じている。

 三島といえば、1シーン1カットの長回しと言われるが、それは「人間の体が反応する、その流れを撮りたいから」だという。

「その役を感じて反応してもらう。肉体から漏れ出るもの。それが表現だと思う」

 そういえば、本作品に出てくる人物たちの動きも水のように流れ、静かにダンスを踊っているようにも見えた。それは説明を省き、ギリギリまで削ぎ落として書いた脚本によるものかもしれない。インタビュー最後で、冒頭でも書いた美しい水の描写に触れると、

「これまで黄泉(よみ)の世界の入り口の意味で『水』を撮ってきた。死と隣り合わせとでもいうのかな。でも、今回は『どこかに繋がるものとしての水』として撮った」

 と、三島が答えた。そして、

「水は希望と他者を繋げている。人はそれぞれ孤島だけれどどこかで繋がるはず。私の中で、『水』に対する考えが変わってきたのかもしれない」

 と微笑んだ。

(文・延江 浩)

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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