2015年7月1日、ほとんどの地域で、生活保護の住宅扶助(家賃補助)が減額された。
しかし、厚労省の関連通知を丁寧に読むと、「家賃の基準そのものは下がるけれども、福祉事務所の判断で、良質な住宅を確保できる金額とすることもできます」という、なんとも悩ましいメッセージが浮かび上がってくる。その一方で、生活保護利用者に対し、家賃の減額や転居を強引に迫る自治体もある。
生活保護の現場を15年経験した元ベテラン行政職員は、この混乱をどう見ているだろうか?
●住宅扶助引き下げに怯える生活保護世帯
生活保護の家賃補助である住宅扶助の上限額見直し(ほとんどの地域で引き下げ)が、2015年7月1日から、実施されている。削減幅は、地方都市の複数世帯で特に大きい。子ども・障害者・傷病者・高齢者など、転居が大きなダメージとなりうる世帯には、「ここで暮らせなくなるのだろうか?」という不安が拡がっている。
支援団体には、
「ケースワーカーから『すぐに』と転居を迫られた」
「ケースワーカーから、『大家さんと交渉して家賃を下げてもらってください』と言われた」
といった生活保護利用者からの相談が相次いでいる。大阪市は、生活保護世帯に対して「住宅扶助の限度額の改定について」というチラシを配布している。上限額の引き下げは記載されているが、具体的な取り扱いについては「担当ケースワーカーまでおたずねください」とあるのみだ。生活保護利用者たちが不安になるのは当然であろう。
そもそも今回の住宅扶助引き下げは、「無理やり」決定されたに近い。「生活保護のリアル 政策ウォッチ編」でも繰り返しレポートしてきた通り、厚労省の諮問機関である社保審・生活保護基準部会においては、多くの委員が引き下げに強く反対していた。報告書にも「住宅扶助は引き下げられるべき」という記述は全く盛り込まれていないどころか、国交省の「最低居住面積水準」さえ満たせていない生活保護の住の劣悪さが述べられている。
それでも、厚労省は引き下げ方針を打ち出した。背後には、生活保護全般の引き下げを迫る財務省の意向がある。しかしながら、厚労省は2015年4月14日と5月13日の2回にわたり、例外規定・経過措置に関する通知を発行している。読み方によっては、生活保護世帯が転居によって何らかのダメージを蒙る可能性がある場合、強制力のある転居指導も、住宅扶助の引き下げも必要ない。場合によっては、上限額の引き上げもありうることになる。